知財判決速報より

H17.10.25 大阪高裁 平成17(ネ)1300


事案は、平成12年に「ミスタードーナッツ」で発覚した法定外添加物使用肉まん事件(食品衛生法違反事件)をめぐって「ダスキンオンブズマン」を名乗るダスキンの株主がネットで取締役会議事録などの文書を公開したというものです。

ダスキンは名誉毀損、信用毀損、また役会議事録の著作権(複製権、公衆送信権)侵害や営業秘密の開示行為として不正競争防止法(法第2条1項7号)違反を理由とする損害賠償や差止を請求しました。

結論として、原審、控訴審ともに無形的損害に対する賠償請求を認めましたが、著作権法違反と不正競争防止法違反は認めませんでした。


★著作権法違反について

取締役会議事録謄写許可申請事件の際の弁護士作成名義の意見書の著作物性

→著作物性を否定

著作権法は,「思想又は感情」自体を保護するものではなく,その「創作的な表現」を保護するものであるところ(著作権法2条1項1号参照),既にみたとおり,本件文書1は,1審被告の申請理由に対する簡略な認否及び1審被告の申請に係る取締役会議事録のうち1審被告の権利行使に必要と考えられる期間,範囲を簡単に記載するなどしたものであって,その文言,言い回し,配列等も,法律的文書としてはごくありふれた表現,配列を用いて記述したものにすぎず,作成者の個性が表れているとまでは認められず,創作性があるとは認められないから,その点でも,本件文書1の著作権に基づく1審原告ダスキンの主張は認められない。』(控訴審判決より)


取締役会議事録の著作物性

→著作物性を否定

本件文書2ないし11に記載された文章は,取締役会議事録のモデル文集の文例に取締役の名称等を記入しただけのものではないものの,使用されている文言,言い回し等は,モデル文集の文例に用いられているものと同じ程度にありふれており,いずれも,日常的によく用いられる表現,ありふれた表現によって議案や質疑の内容を要約したものであると認められ,作成者の個性が表れているとは認められず,創作性があるとは認められない。また,開催日時,場所,出席者の記載等を含めた全体の態様をみても,ありふれたものにとどまっており,作成者の個性が表れているとは認められず,創作性があるとは認められない。』(控訴審判決より)


不正競争防止法違反について

控訴審では原審判決を「引用する」と判示しました。

→営業秘密性の要件(不正競争防止法第2条4項)を欠くと判断

(1) 不正競争防止法2条4項の秘密管理性の要件を充足するためには,アクセスした者が営業秘密であることを認識し得ること,アクセスできる者が限られていることなどが必要である。
(2) 原告ダスキンは,取締役会議事録は典型的な秘密文書であるから,アクセスした者はだれでも,それが会社の秘密に該当するものであると認識し得ること,原告ダスキンにおいては,取締役会議事録を閲覧することができるのは,役員ほか一部の従業員に限られており,従業員に対してアクセスを制限しており,秘密として管理されていることを主張する。
前記1(2)のとおり,取締役会議事録は,商法260条の4第6項により,株主等がその権利を行使する必要があるときに,裁判所の許可を得て閲覧又は謄写の請求をすることができるにとどまる。しかし,そのことから直ちに,取締役会議事録が常に営業秘密に該当すること,アクセスした者がだれでも営業秘密であると認識し得ることは認められず,その他に,本件文書2ないし11について,アクセスした者がだれでも営業秘密であると認識し得たことを認めるに足りる証拠はない。また,本件では,原告ダスキンにおいて,取締役会議事録を閲覧することができるのが,役員ほか一部の従業員に限られていたこと,及び従業員に対してアクセスを制限していたことを認めるに足りる証拠はない。
したがって,本件文書2ないし11が営業秘密として管理されていたことを認めるに足りる証拠はなく,不正競争防止法2条4項所定の営業秘密に当たらないか,原告ダスキンの不正競争防止法に基づく請求は,理由がない。
』(原審判決より)


原審H17. 3.17 大阪地裁 平成16(ワ)6804



なお、被告側弁護人の名前の中に壇俊光先生を見つけることができます。
壇先生の今回の判決に関するブログ記事はこちらです。

壇弁護士の事務室