知財判決速報より

H17.9.9 東京地裁 平成17(ワ)7875 著作権 民事訴訟事件

キューピーに関するイラスト等の著作権の譲渡を受けた原告(仮に甲とします)が著作権侵害を根拠として被告(仮に乙とします)に対して損害賠償を請求した事案。

結論は請求棄却で原告甲の敗訴


裁判所による求釈明が何度も行われたにもかかわらず、侵害されたとする著作権や侵害行為、損害の内容が原告甲側において特定されないというもので、甲には訴訟代理人も付いていない濫訴的な訴訟


今回、原告甲は
本件訴訟は,損害金の獲得を目的とするものではなく,被告代表者の著作権に関する訴訟で言い渡された判決(東京高等裁判所平成11年(ネ)第6345号,同平成12年(ネ)第7号等)を正確にすることが主たる目的であるから,被告代表者の著作権の存否について改めて審理をして,国民の前にその疑問について真実を糾す必要がある」(本件判決文より)

との義侠心?から訴訟を提起したようです。

事の発端としては上記の平成13年に高裁判決の出ている2つの訴訟があります。本件の被告乙はこの2つの裁判では原告でした。
もっとも、今回の原告甲はこの2つの裁判に関係ありません。

そして、判決は
上記認定のとおり,ローズ・オニールの著作物に係る著作権の保護期間及び本件契約の内容並びに本件訴訟に至る経緯等によれば,原告は,少なくともローズ・オニールの著作物に係る著作権を業として利用する目的はなかったのであって,むしろ,原告は,被告が著作権の侵害行為を行って利益を得ていたと指摘する判決に目を付けて,その利益を損害賠償金として取得しようとして,これに関する著作権を取得しようとしたものと推認することができる。そうすると,このような原告の請求は,司法機関を利用しつつ不当な利益を追求するものであって,文化的所産の公正な利用を目的とする著作権法の趣旨に反するものであるから,原告の主張に係る著作権に基づく請求は,権利濫用として許されないというべきである。

と判示しました。


結局、裁判所は原告甲の請求はつまるところカネ目当て(6億円の損害があると主張。賠償額のうちの一部1000万円を請求しました。)の脱法行為であり「権利濫用」として許されない、と判断したわけです。


参考

被告乙とキューピー株式会社との訴訟

H13. 5.30 東京高裁 平成11(ネ)6345 著作権 民事訴訟事件

原審 H11.11.17 東京地裁 平成10(ワ)13236 著作権 民事訴訟事件

なお、平成14年10月29日上告棄却。


被告乙と日本興業銀行との訴訟

H13. 5.30 東京高裁 平成12(ネ)7 著作権 民事訴訟事件

原審 H11.11.17 東京地裁 平成10(ワ)16389 著作権 民事訴訟事件


ところで、被告乙とキューピー株式会社との間では上記の東京地裁に提起された訴訟(第一次訴訟)のほかに、大阪地裁にその後提起された訴訟もあります。
いくつかあるイラスト作品のうち、第一次訴訟とは異なるイラスト作品などの著作権に関して訴訟物とされたものです。
もっとも、乙が主張した点のうちの一部は実質的な第一次訴訟の蒸し返しであるとして信義則違反禁反言の法理から退けられています。

H17. 2.15 大阪高裁 平成16(ネ)1797 著作権 民事訴訟事件

原審 H16. 4.27 大阪地裁 平成15(ワ)6255 著作権 民事訴訟事件