知財判決速報より。

事案は研究所の元研究員が、上司に当たる部門長の工学博士学位授与に関して学位認定大学当局に対してその取消などを求めたというのもの。
研究チームの中心となってこの元研究員が作成した研究成果報告書に記載された図表32枚について、研究所部門長が大学に提出した学位論文に盗用され、これに基づいて大学から学位が授与されたとして著作権侵害に基づく差止請求(著作権法112条)などを大学に求めたわけです。

H17.5.25 知財高裁 平成17(ネ)10038 著作権 民事訴訟事件


結論的には著作権侵害は無く、原審、控訴審とも原告敗訴でした。


原審にあたることができなかったので、ここでは控訴審判決の規範部分の紹介にとどめたいと思います。
参考となるのは、データをグラフ化するなどの場合の図表の表現の著作物性に関する控訴審の判断です。

実験結果等のデータ自体は,事実又はアイディアであって,著作物ではない以上,そのようなデータを一般的な手法に基づき表現したのみのグラフは,多少の表現の幅はあり得るものであっても,なお,著作物としての創作性を有しないものと解すべきである。なぜなら,上記のようなグラフまでを著作物として保護することになれば,事実又はアイディアについては万人の共通財産として著作権法上の自由な利用が許されるべきであるとの趣旨に反する結果となるからである。
そして本件図表は、「実験の結果等のデータを,一般的な通常の手法に従って,データに忠実に,線グラフや棒グラフとして表現したものであると認められる。したがって,本件図表は,著作物に当たらないものといわざるを得ず,控訴人の上記主張は理由がない。


学術的な性質を有する図表は著作権法10条1項6号の図形著作物として保護されますが、アイデアの表現の幅が狭く、表現とアイデアが不可分の関係にある場合は、その表現を保護しないというマージ理論と同じ考え方に立つものであるといえます。

なお、権利の射程に係る法理について、作花文雄「詳解 著作権法 第3版」218頁以下参照。