2012年01月30日

女性用ボレロ編み物編み図事件−著作権 損害賠償等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

女性用ボレロ編み物編み図事件

東京地裁平成23.12.26平成22(ワ)39994平成22(ワ)39994損害賠償等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官      菊池絵理
裁判官      森川さつき

*裁判所サイト公表 2012.1.17
*キーワード:著作物性、美術の著作物、図形の著作物

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■事案

女性用ボレロの毛糸編み物や編み図の著作物性が争点となった事案

原告:手編み物作家
被告:毛糸等繊維会社、編物教室主宰者

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、10条1項4号、6号

1 原告編み物の著作物性の有無
2 原告編み図の著作物性の有無

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■事案の概要

『別紙原告作品目録記載1及び2の編み物(以下,それぞれ「原告編み物1」,「原告編み物2」といい,両者を併せて「原告編み物」という。)及び同目録記載3及び4の編み図(以下,それぞれ「原告編み図1」,「原告編み図2」といい,両者を併せて「原告編み図」という。また,原告編み物と原告編み図を併せて「原告作品」という。)の制作者である原告が,被告Q(以下「被告Q」という。)が被告ニッケ商事株式会社(以下「被告会社」という。)に別紙被告作品目録記載1の編み物(以下,被告Qが納入した編み物及びその複製品を総称して「被告編み物」という。)及び同目録記載2の編み図(以下「被告編み図」といい,被告編み物と併せて「被告作品」という。)を納入し,被告会社が被告編み物を下請業者に製作させて展示,販売し,被告編み物を写真撮影して雑誌等に掲載して使用し,かつ,被告編み図を多数複製して顧客や販売店等に頒布するなどしたことに関し,被告作品は原告編み物又は原告編み図を複製,翻案したものであり,被告会社撮影に係る別紙被告作品目録記載3の写真(以下「被告編み物写真」という。)は原告編み物又は原告編み図を翻案したものであり,被告作品の展示は展示権を侵害するなどと主張し,被告らに対し,被告作品及び被告編み物写真の展示,販売,販売の申出の差止め,侵害品の廃棄を求めるとともに,被告らの行為は上記各権利を侵害したほか原告の著作者人格権(氏名表示権)を侵害するものであって,被告らは,故意又は過失により,共同して上記各行為に及んだものであるから,著作権及び著作者人格権侵害の共同不法行為責任に基づき,被告らに対し,連帯して,損害賠償金合計660万円(附帯請求として平成22年7月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求め,さらには,被告らに対し,著作権法115条に基づき,謝罪広告の掲載を求める事案』(2頁)

<経緯>

H10.3 原告が原告編み物と編み図を制作
H10.4 被告Qが原告編み物を展示
H10.6 原告が被告Qへ手紙を送付
H21   被告Qが被告会社から制作業務受託
H22.7 原告が被告らに内容証明郵便通知

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■判決内容

<争点>

1 原告編み物の著作物性の有無

原告が制作した編み物の著作物性について、裁判所は、著作権法2条1項1号の趣旨に言及した上で、原告が主張する創作性の部分が『「形の最小単位は直角三角形であり,この三角形二つの各最大辺を線対称的に合わせて四角形を構成し,この四角形五つを円環的につなげた形二つをさらにつなげた形」と表現される別紙図面記載の構成(本件構成)』(23頁)部分であると認定しています。
そして、原告編み物においては、編み目の方向の変化、編み目の重なり、各モチーフの色の選択、編み地の選択等の点がその表現を基礎付ける具体的構成となっているものということができ、原告編み物は、これらの具体的構成によって思想又は感情を表現しようとしたものであると判断。
こうした具体的構成を捨象した「線」から成る本件構成は、表現それ自体ではなく、そのような構成を有する衣服を作成するという抽象的な構想又はアイデアにとどまるものというべきものとして、創作性の根拠とはならないとしています。

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2 原告編み図の著作物性の有無

次に仕上がり寸法や編み方、展開図が示された原告編み図の著作物性について、裁判所は、原告が主張する創作性の部分は、本件構成を表示した部分であり、原告編み図の表示のうち、展開図(2枚目)についてであると認定しています(25頁以下)。
そして、争点1と同様、本件構成自体は、そのような形の衣服を作成するという抽象的な思想又はアイデアにすぎず、これを表示する展開図に著作物性を認めることはできないと判断しています。

なお、編み図の美術又は図形の著作物性(10条1項4号、6号)についても、これを否定しています(27頁)。

美術の著作物性については、『原告編み図を美術の著作物としてみた場合,上記展開図は,直角三角形二つの最大辺同士を合わせて形成される不等辺四角形五つを,直角三角形の鋭角を中心点に合わせて並べて正五角形に近い形(正五角形の一辺に切り込みの入った形状)とし,これを横に二つ並べた図形を直線によって描いたものにすぎず,これにその他の説明のための文字,記号等を含めて考えてみても,その具体的表現において,「美術の範囲に属するもの」というべき創作性を認め得るものではない』(27頁)と判断されています。

また、図形の著作物性については、図面としての見やすさや編み方の説明のわかりやすさに関する創意工夫が表現上現れているか否かによって創作性の有無を検討すべきであるとした上で、原告編み図においては、編み物の作成方法の説明としてはありふれたものであったり、編み図における一般的な表示方法又は一般的ルールに従ったものであり、図面としての見やすさや説明のわかりやすさに関して、特段の創意工夫を加えたものということはできないとして、図形としての著作物性も否定しています。

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■コメント

本件は、原告が被告Qのニット編み物教室で被告の補佐を務めていたという人間関係のなかでの著作権紛争となります。
具体的な作品がどのようなものだったのか画象がなくてよく分かりませんが、原告の編み物2点の関係性を捉え直し、編み目の方向の変化、編み目の重なり、各モチーフの色の選択、編み地の選択といった具体的構成による表現としての創作性を争点として構成した場合、裁判所は侵害性の点を含め、どのような判断に至っていたでしょうか(24頁以下参照)。

なお、衣料品の類否(デッドコピー)が争点となる事案としては、不正競争防止法案件(2条1項3号)のほうが多いかもしれません(ノースリーブ型カットソー事件、レース付衣料品事件等)。
また、折り図の著作物性については、先日の折り紙の事案が記憶に新しいところです(吹きゴマ折り図事件)。

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■過去のブログ記事

2007年7月18日記事
レース付衣料品事件
2012年1月5日記事
吹きゴマ折り図事件(控訴審)
written by ootsukahoumu at 05:37|この記事のURLTrackBack(0)知財判決速報2011 

2012年01月23日

「暁の脱走」格安DVD事件(対東宝)上告審−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(最高裁判所判例集)−

最高裁判所HP 最高裁判所判例集より

「暁の脱走」格安DVD事件(対東宝)上告審

最判平成24.1.17平成22(受)1884著作権侵害差止等請求事件PDF

裁判長裁判官 那須弘平
裁判官      田原睦夫
裁判官      岡部喜代子
裁判官      大谷剛彦
裁判官      寺田逸郎

*裁判所サイト公表 2011.1.17
*キーワード:映画の著作物、著作者、旧著作権法、保護期間、過失論

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■事案

『旧著作権法(昭和45年法律第48号による改正前のもの)の下において興行された映画の複製物を輸入し,頒布する行為をした者がその著作権の存続期間が満了したと誤信していたとしても,同行為について同人に少なくとも過失があるとされた事例』(裁判要旨より)

上告人 :映画会社
被上告人:格安DVD製造販売会社

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■結論

破棄差戻し

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■争点

条文 著作権法2条1項2号、21条、113条1項1号、旧法6条、民法709条

1 被告(被上告人)の過失の有無

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■事案の概要

『本件は,上告人が,著作権法(昭和45年法律第48号)の施行日である昭和46年1月1日より前に公開された映画の著作権侵害を理由として,上記映画のDVD商品である原判決別紙「被告商品目録」記載の各商品(以下「本件商品」という。)を海外において製造して輸入し,頒布する被上告人に対し,民法709条,著作権法114条3項に基づき,損害賠償を求める事案である。被上告人は,上記映画の著作権の存続期間につき旧著作権法(昭和45年法律第48号による改正前のもの。以下「旧法」という。)6条が適用されると考え,既に上記映画の著作権の存続期間は満了したと誤信していたと主張するところ,被上告人が,本件商品の輸入及び頒布をしたことにつき,過失が認められるか否かが争点となっている』事案(1頁)

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■判決内容

<争点>

1 被告(被上告人)の過失の有無

原審では、被告(被上告人)の著作権侵害行為に関する過失を否定して、損害賠償請求を認めていませんでした。
この点について、最高裁第三小法廷は、

『旧法下の映画の著作者については,その全体的形成に創作的に寄与した者が誰であるかを基準として判断すべきであるところ(最高裁平成20年(受)第889号同21年10月8日第一小法廷判決・裁判集民事232号25頁),一般に,監督を担当する者は,映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与し得る者であり,本件各監督について,本件各映画の全体的形成に創作的に寄与したことを疑わせる事情はなく,かえって,本件各映画の冒頭部分やポスターにおいて,監督として個別に表示されたり,その氏名を付して監督作品と表示されたりしていることからすれば,本件各映画に相当程度創作的に寄与したと認識され得る状況にあったということができる。』
『他方,被上告人が,旧法下の映画の著作権の存続期間に関し,上記の2(7)アないしウの考え方を採ったことに相当な理由があるとは認められないことは次のとおりである。
 すなわち,独創性を有する旧法下の映画の著作権の存続期間については,旧法3条〜6条,9条の規定が適用される(旧法22条ノ3)ところ,旧法3条は,著作者が自然人であることを前提として,当該著作者の死亡の時点を基準にその著作物の著作権の存続期間を定めるとしているのである。旧法3条が著作者の死亡の時点を基準に著作物の著作権の存続期間を定めることを想定している以上,映画の著作物について,一律に旧法6条が適用されるとして,興行の時点を基準にその著作物の著作権の存続期間が定まるとの解釈を採ることは困難であり,上記のような解釈を示す公的見解,有力な学説,裁判例があったこともうかがわれない。また,団体名義で興行された映画は,自然人が著作者である旨が実名をもって表示されているか否かを問うことなく,全て団体の著作名義をもって公表された著作物として,旧法6条が適用されるとする見解についても同様である。最高裁平成19年(受)第1105号同年12月18日第三小法廷判決・民集61巻9号3460頁は,自然人が著作者である旨がその実名をもって表示されたことを前提とするものではなく,上記判断を左右するものではない。そして,旧法下の映画について,職務著作となる場合があり得るとしても,これが,原則として職務著作となることや,映画製作者の名義で興行したものは当然に職務著作となることを定めた規定はなく,その旨を示す公的見解等があったこともうかがわれない。加えて,被上告人は,本件各映画が職務著作であることを基礎付ける具体的事実を主張しておらず,本件各映画が職務著作であると判断する相当な根拠に基づいて本件行為に及んだものでないことが明らかである。』

『そうすると,被上告人は,本件行為の時点において,本件各映画の著作権の存続期間について,少なくとも本件各監督が著作者の一人であるとして旧法3条が適用されることを認識し得たというべきであり,そうであれば,本件各監督の死亡した時期などの必要な調査を行うことによって,本件各映画の著作権が存続していたことも認識し得たというべきである。』(4頁以下)

として、被上告人が本件各映画の著作権の存続期間が満了したと誤信していたとしても、少なくとも過失があると判断。
原審の前記判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとして、原判決中の上告人敗訴部分を破棄、原審に差し戻すとしています。

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■コメント

「暁の脱走」「また逢う日まで」「おかあさん」映画作品の保護期間を巡り、映画の著作者が各監督なのか映画会社であるのかが争われた事案の上告審となりますが、争点は、控訴審で否定された格安DVD製造販売業者(被告・被上告人)の過失の有無でした。

同一被告に対する下級審での訴訟は、最高裁判所サイト内検索で13件あって、損害賠償請求を内容とする訴訟では、すべて被告の過失が認定され損害賠償が認められていました。知財高裁第2部(中野裁判長)担当の損害賠償請求附帯控訴事件でも過失が認定されています(対松竹控訴審)。
本件の原審となる知財高裁第1部(塚原裁判長)の判断だけが過失否定の判断となっていましたが、破棄差し戻しという結果となりました。

あわせて後掲の企業法務戦士の雑感さんの記事をご覧いただけたらと思います。
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■過去のブログ記事

2010.6.28記事
「暁の脱走」格安DVD事件(対東宝)控訴審

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■参考判例

原審
知財高裁平成22.6.17平成21(ネ)10050著作権侵害差止等請求控訴事件

チャップリン「モダンタイムス」事件
最判平成21.10.8平成20(受)889著作権侵害差止等請求事件

「シェーン」事件
最判平成19.12.18平成19(受)1105著作権侵害差止等請求事件

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■参考サイト

企業法務戦士の雑感(2012.1.18)
たった一度だけだった奇跡。
written by ootsukahoumu at 06:34|この記事のURLTrackBack(0)知財判決速報2012 

2012年01月10日

浄水器取扱説明書事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

浄水器取扱説明書事件

大阪地裁平成23.12.15平成22(ワ)11439著作権侵害差止等請求事件PDF

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 山田陽三
裁判官      達野ゆき
裁判官      西田昌吾

*裁判所サイト公表 2011.12.28
*キーワード:取扱説明書、編集著作物性、著作物性、一般不法行為論

*関連事件
大阪地裁平成23.12.15平成22(ワ)11862商標権侵害差止等請求事件
大阪地裁平成23.12.15平成22(ワ)13746意匠権侵害差止等請求事件

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■事案

逆浸透膜浄水器の取扱説明書の著作物性や編集著作物性が争点となった事案

原告:浄水器・浄水装置等輸入製造販売会社
被告:浄水器・浄水装置等の輸出入販売会社、建設会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法12条1項、2条1項1号、民法709条

1 原告各取扱説明書は編集著作物か
2 原告各取扱説明書は著作物か
3 被告各取扱説明書の作成・頒布は不法行為か

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■事案の概要

『原告は,被告取扱説明書1,3の作成・頒布が,原告取扱説明書1に係る編集著作権(主位的主張),全体の著作権(予備的主張1),各頁の著作権(予備的主張2),法的に保護された利益(予備的主張3)を侵害し,被告取扱説明書2の作成・頒布が,原告取扱説明書2に係るこれらの権利・利益を侵害するとして,(1) 被告らに対し,著作権法112条1項に基づき,被告各取扱説明書の作成・頒布の差止めを,(2)被告NMT販売に対し,不法行為に基づき,283万2000円の損害賠償及びこれに対する平成22年8月13日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの遅延損害金の支払を,(3)被告大倉に対し,不法行為に基づき,168万6300円の損害賠償及びこれに対する平成22年8月17日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの遅延損害金の支払を,それぞれ求め』た事案(3頁以下)

<経緯>
H19.6 原告と被告NMT販売が総販売代理店契約締結
       被告NMT販売が製造した商品を販売開始
H21.9 原告が注意喚起文書を送付

原告製品1の1:CV−1500EX(原告取扱説明書1の1)
原告製品1の2:CV−1500SR(原告取扱説明書1の2)
原告製品2:CVQ−2000(原告取扱説明書2)
被告製品1:GW−1500EX(被告取扱説明書1、被告取扱説明書3)
被告製品2:CVQ−2000EX(被告取扱説明書2)

意匠権:1218817
商標権:4054568、4539857、4054569

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■判決内容

<争点>

1 原告各取扱説明書は編集著作物か

編集著作物として著作権法上の保護を受けるためには、素材の選択、配列に係る具体的な表現形式において創作性があることが必要とされますが(著作権法12条1項)、取扱説明書における編集著作物としての保護性について、裁判所は、その性質上、製品概要や取扱方法、タイトルやイラストといった一定の表記方法が要求され、かつ、広く採用されていると考えられるとして、製品の取扱説明書に係る編集著作物性を判断するにあたっては、これらの内容や表記方法は、「原則としてありふれた表記である」ということができると説示。
その上で、原告各取扱説明書の創意工夫について、原告が指摘した、

(1) 図面、記号、マーク、具体例の使用
(2) 各種団体公認の表記
(3) 取扱説明書の趣旨及び安全上の遵守事項の記載の先行
(4) 文字サイズ、文字飾り、インパクトのある単語、マークによる強調
(5) イラスト図面・記号の使用、記載場所、大きさ等

の諸点に関して、通常行われているありふれたものあったり、そもそも「素材の選択」にも「素材の配列」にも該当しないものである、としてその創作性を否定。
また、写真、図面、説明文の配置やその他の表記もレイアウト上の工夫としてありふれたものと判断。原告各取扱説明書の編集著作物性を否定しています(23頁以下)。

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2 原告各取扱説明書は著作物か

1.全体としての著作物性

原告各取扱説明書全体の著作物性について、その記載内容が逆浸透膜浄水器の説明、各部の名称、取扱説明書の説明、安全上の注意、設置方法、使用方法、メンテナンス、トラブル対処法、保証の範囲外といった客観的事実に係るもので、それらが箇条書きあるいは短い文章で正確を期した説明がされていることから、その表現は必然的にありふれたものとならざるを得ないとして、全体としての著作物性を否定しています(25頁)。

2.各頁の著作物性

さらに原告が著作物性を有するとした各頁の個別の記載を検討しています(25頁以下)。
結論としては、いずれもありふれた表現方式であるなどとして、その著作物性を否定しています。

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3 被告各取扱説明書の作成・頒布は不法行為か

原告は、原告各取扱説明書が様々な創意工夫をし、多大な時間と労力を費やして作成されたものであることから、これらをデッドコピーした被告各取扱説明書を原告が営業活動を行う地域で頒布することは、取引における公正かつ自由な競争として許される範囲を逸脱し、法的保護に値する原告の営業活動を侵害するものだと主張しました(29頁以下)。
しかし、裁判所は、被告各取扱説明書は対象製品から独立して頒布されるものではないこと、また、原告各取扱説明書は著作権法上の保護を受けられず、その利用は許されるものであることから、被告各取扱説明書の作成・頒布は不法行為法上違法になるとは認めていません。

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■コメント

総販売代理店契約に違反して代理店が類似商品を販売したという事案です。著作権、商標権、意匠権に関する各侵害行為についてそれぞれ別訴提起となっていますが、3つの事件では契約違反に基づく損害賠償請求の点は争点になっていません。
原告取扱説明書2と被告取扱説明書2の類否を被告が争っていないなど(17頁以下)、被告販売会社設立の経緯や契約内容の詳細は不明な部分です。
結論としては、著作権侵害性は否定されたものの、商標権と意匠権の各侵害性は別訴で肯定されていて、差止めや損害賠償請求が認められています。

なお、商品の取扱説明書の著作物性については、先例として風呂バンス事件(後掲の浴湯保温器取扱説明書事件参照)がありますが、ここでも取扱説明書の編集著作物性は否定されています。

ところで、商品の取扱説明書については、商品開発者の思いを受け止めながら、客観的事実を正確に、また、利用者に読み易く、法令遵守で作成する必要があり、取扱説明書の著作物性の有無はともかくとして、その制作には文章表現のみならず、編集、レイアウト、デザイン、DTP技術など、創意と技術と労力が要求されます。
取扱説明書の作成を担当するテクニカルライターさん方は、日々その研鑽を重ねておいでです(たとえば、テクニカルライターの会参照)。
工夫を凝らした取扱説明書の先例があれば、そのエッセンスを吸収してより良い説明書を作成していく、という意味では、模倣の、そのさらに上を目指しておいでなのが、テクニカルライターのお仕事ぶりといえます。

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■過去のブログ記事

2005年12月29日記事
浴湯保温器取扱説明書事件

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■参考判例

浴湯保温器取扱説明書事件
大阪高裁平成17.12.15平成17(ネ)742不正競争行為差止等請求控訴事件
大阪地裁平成17.2.8平成15(ワ)12778不正競争行為差止等請求事件

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■参考サイト

原告サイト
ご購入に関してのご注意。ニューメディカテック株式会社のクリスタルヴァレー逆浸透膜浄水器

written by ootsukahoumu at 06:27|この記事のURLTrackBack(0)知財判決速報2011 

2012年01月05日

吹きゴマ折り図事件(控訴審)−著作権 損害賠償等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

吹きゴマ折り図事件(控訴審)

知財高裁平成23.12.26平成23(ネ)10038損害賠償等請求控訴事件PDF
別紙1から3(原審別紙資料)

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官      池下 朗
裁判官      武宮英子

*裁判所サイト公表 2011.12.27
*キーワード:著作物性、アイデア表現二分論、複製権、翻案権、公衆送信権、著作者人格権、一般不法行為論

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■事案

折り紙作家の「吹きゴマ」折り図を無断でTV局の番組ウェブサイトに改変掲載されたとして、折り図の著作物性や複製権、翻案権侵害性が争点となった事案の控訴審

原告(控訴人) :創作折り紙作家
被告(被控訴人):株式会社TBSテレビ

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、27条、23条、19条、20条、民法709条

1 著作権侵害の有無
2 著作者人格権侵害の有無
3 法的保護に値する利益の侵害を理由とする不法行為の成否等

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■事案の概要

『折り紙作家である原告は被告に対し,被告の制作に係るテレビドラマ「ぼくの妹」の番組ホームページ(「http://www.tbs.co.jp/bokunoimouto/news.html」。本件ホームページ)に被告折り図(原判決の別紙2記載の「吹きゴマ」の折り図。説明文を含む。)を掲載した被告の行為について,主位的に,被告折り図は,「1枚のかみでおる おりがみ おって遊ぶ −アクションおりがみ−」と題する原告書籍に掲載された本件折り図(原判決の別紙1記載の「へんしんふきごま」の折り図。説明文を含む。)を複製又は翻案したものであり,被告による被告折り図の作成及び本件ホームページへの掲載行為は,原告の著作物である本件折り図について原告の有する著作権(複製権ないし翻案権,公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)の侵害に当たる旨主張し,著作権侵害及び著作権人格権侵害の不法行為による損害賠償として285万円及び遅延損害金の支払と著作権法115条に基づき被告の運営するホームページに別紙謝罪文目録1記載の謝罪文の掲載を求め,予備的に,仮に被告の上記行為が著作権侵害及び著作権人格権侵害に当たらないとしても,原告の有する法的保護に値する利益の侵害に当たる旨主張し,上記利益の侵害の不法行為による同額の損害賠償及び遅延損害金の支払と民法723条に基づき上記ホームページに別紙謝罪文目録2記載の謝罪文の掲載を求めた。』

『原判決は,本件折り図の著作物性を認めたが,被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴部分を直接感得することができないとして,被告による被告折り図の作成及び本件ホームページへの掲載行為は,原告の複製権ないし翻案権及び公衆送信権のいずれの侵害にも当たらない,同一性保持権及び氏名表示権のいずれの侵害にも当たらないと判断し,原告の主位的請求は理由がないとした。また,被告の一連の行為が原告の法的保護に値する利益を侵害する違法なものとして不法行為を構成するとは認められないとして,原告の予備的請求も理由がないとした』事案(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 著作権侵害の有無

控訴審は、原判決の判断を是認した上で、控訴審での当事者の補足的主張について判断しています。
被告折り図と本件折り図との対比について、

【共通点】
(1)32の折り工程からなる「へんしんふきごま」(吹きゴマ)の折り方について、10個の図面(説明図)及び完成形を示した図面(説明図)によって説明している
(2)各説明図でまとめて選択した折り工程の内容
(3)各説明図は、紙の上下左右の向きを一定方向に固定し、折り筋を付ける箇所を点線で、付けられた折り筋を実線で、折り筋を付ける手順を矢印で示している等

【相違点】
(1)本件折り図
折り方の折り工程のうち矢印、点線等のみでは読み手が分かりにくいと考えた箇所について説明文及び写真を用いて折り方を補充して説明する表現方法を採っている。また、写真を用いた説明箇所がある。
(2)被告折り図
折り工程の順番を丸付き数字で示した上で,折り工程の大部分について説明文を付したものであって、説明文の位置付けは補充的な説明にとどまるものではなく、読み手がこれらの説明文と説明図に示された点線、実線及び矢印等から折り方を理解することができるような表現方法を採っている。
また、色分けをしていない点、本件折り図における「工夫のヒント」の記載内容と被告折り図における「完成!」の記載内容が異なる。

以上の諸点から、被告折り図と本件折り図とは、折り図としての見やすさの印象が大きく異なり、分かりやすさの程度においても差異があるとして、被告折り図は本件折り図の有形的な再製には当たらず、また、被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴が直接感得できるともいえないと判断。
被告が被告折り図を作成する行為は、本件折り図について有する原告の複製権ないし翻案権を侵害しないと判断しています(7頁以下)。

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2 著作者人格権侵害の有無

被告による被告折り図の作成及び本件ホームページへの掲載行為が、原告が保有する本件折り図についての同一性保持権及び氏名表示権を侵害するかどうかについて、被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴が直接感得できないことから、著作者人格権侵害性も否定されています(9頁)。

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3 法的保護に値する利益の侵害を理由とする不法行為の成否等

原告は、折り紙作品のテレビ無断放映と本件折り図のホームページ無断掲載などについて不法行為を構成する旨主張しましたが、いずれも裁判所に認められていません(9頁以下)。

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■コメント

控訴審でも原審の判断が維持されています。
別紙1と2_ページ_1
(別紙1本件折り図)
別紙1と2_ページ_2
(別紙2被告折り図)
別紙3_ページ_1

別紙3_ページ_2
(別紙3対比表)

被告折り図と本件折り図の共通点である32の工程を10個の図面で説明する手法といった説明手法自体は、読者に対してわかりやすく説明するための手法であって具体的表現ではない(9頁)として、アイデアと表現の区別について、控訴審でも原審同様の判断となっています。
原告側としても、32の工程を10個の図面を用いた構成とすること自体がアイデアの範疇に属することは認識した上で、折り工程の選択によるその具体的表現を問題としているわけですが(4頁)、どの工程を選択していくつの工程でまとめてそれを具体的にどのように表現していくかということは、連続しているので(アイデアと表現の連続性)、その区別の判断は難しい部分です(たとえば、最近では箱根富士屋ホテル物語事件で、原審と控訴審で著作物性の判断が分かれました)。
一方では、折り紙の折り図の著作物性についてみれば、その作品の折り図を分かり易く表現する場合の表現方法は選択の幅が狭くなり、デッドコピーのような場合以外は創作作家さんに折り図の独占を認めるべきではない、という価値判断が強く働く種類の著作物となりますので、保護の範囲も狭くなると思われるところです。
いずれにしても、折り紙の折り図の著作物性(2条1項1号)が肯定され得ること、また、どの程度違う内容であれば、工程が似通っていても非侵害となるかという知財高裁レベルでの事例判断として参考になる事案です。

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■過去のブログ記事

2011年5月25日記事
吹きゴマ折り図事件

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■追記(2012.01.08)

企業法務戦士の雑感
踏んだり蹴ったりのTBS

written by ootsukahoumu at 09:14|この記事のURLTrackBack(0)知財判決速報2011 

2012年01月03日

火災保険契約説明書事件−著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

火災保険契約説明書事件

東京地裁平成23.12.22平成22(ワ)36616損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官      大西勝滋
裁判官      石神有吾

*裁判所サイト公表 2011.12.27
*キーワード:著作物性、職務著作性、一般不法行為論、品質等誤認惹起行為、秘密保持契約

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■事案

火災保険に関する説明書面の著作物性などが争点となった事案

原告:損害保険代理店
被告:損害保険会社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、15条1項、21条、114条3項、不正競争防止法2条1項13号、民法709条

1 著作権侵害の成否
2 本件秘密保持契約違反の有無
3 不競法2条1項13号の不正競争行為の成否
4 一般不法行為の成否
5 損害論

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■事案の概要

『損害保険の代理店業等を営む原告が,損害保険会社である被告に対し,被告が,原告と被告間の損害保険代理店契約が解除された後に,原告の著作物である別紙1の「平成22年1月1日付け火災保険改定のお知らせ」と題する説明書面(「本件説明書面」という。)を複製し,これを含む別紙2の案内資料(以下「被告案内資料」という。)を原告の顧客である社会福祉法人に送付し,被告との火災保険契約の締結を勧誘した行為は,原告の本件説明書面についての著作権(複製権)の侵害,上記解除に伴い原告と被告間で締結された秘密保持契約違反の債務不履行,不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項13号の不正競争行為及び一般不法行為に該当するとして,民法709条,415条及び不競法4条に基づく損害賠償と遅延損害金の支払を求めた事案』(2頁)

<経緯>

H15.4 原告被告間で損害保険代理店契約締結
H19.6 代理店契約解除。本件秘密保持契約締結
H21.10原告が本件説明書面を作成
H21.11被告が被告案内書面を作成
H22.1 火災保険内容改定

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■判決内容

<争点>

1 著作権侵害の成否

(1)本件説明書面の著作物性

「平成22年1月1日付け火災保険改定のお知らせ」と題する顧客向け文章と、地域別に建物の構造級別区分ごとの保険料率の改定幅を数値で示した一覧表及び区分判定チャート方式図表からなる原告の本件説明書面の著作物性(著作権法2条1項1号)がまず争点となっています(16頁以下)。

この点について、被告は、火災保険の内容改定といった既定の事実や変更点についての客観的なデータの羅列又は集合にすぎず、また、改定内容を正確に記述することが強く求められるものであるとして、本件説明書面に著作物性が成立しないと反論しました。

しかし、裁判所は、本件説明書面の構成やデザインは、本件改定の内容を説明するための表現方法として様々な可能性があり得る中で本件説明書面の作成者が本件改定の内容を分かりやすく説明するという観点から、特定の選択を行い、その選択に従った表現を行ったものといえるとした上で、これらを総合した成果物である本件説明書面の中に作成者の個性が表現されているものと認めることができると判断。著作物性を肯定しています。

(2)本件説明書面の職務著作該当性

本件説明書面は原告の第一営業部長のY1が作成したものであり、原告の発意に基づき、その業務に従事する者が職務上作成した著作物であり、原告の著作名義の下で公表され、また、別段の定めもないとして、本件説明書面の職務著作該当性(15条1項)を肯定。本件説明書面の著作者は原告であると認められています(18頁)。

(3)被告による複製権侵害の有無

被告による複製権侵害の有無について、裁判所は、被告案内資料中の「見本(1)」及び「見本(2)」と題する各書面は、被告が本件説明書面に「見本(1)」及び「見本(2)」の文字、矢印及び文字囲み(本件説明書面の本文部分中の「14.71%から最大で48.48%の大幅アップとなります。」との部分)を手書きで加えたものを複写して作成したコピーであるとして、被告による上記各書面の作成行為は、本件説明書面の複製(著作権法2条1項15号)に該当することが明らかであり、また、被告は本件説明書面の複製につき原告の許諾を得ていないことから、原告の複製権(21条)を侵害すると判断しています(19頁)。

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2 本件秘密保持契約違反の有無

損害保険代理店契約解除に伴い、原被告間で契約期間中の顧客情報を含めた情報の取扱いについて秘密保持契約を締結していました。
この点について、原告は、被告が被告案内資料を送付した先がいずれも本件特約火災保険の契約者であることから、被告は本件代理店契約の締結中に知り得た本件契約情報中の契約者に関する情報に基づいて送付先の社会福祉法人を選定したものであり、被告による被告案内資料の送付行為は、本件秘密情報に属する本件契約情報を自己の営業目的に使用する行為に当たるものといえるとして、本件秘密保持契約(4条)に違反する旨主張しました。
しかし、裁判所は、被告案内書面の内容は、必ずしも本件特約火災保険の契約者のみを対象とした書面としてしか理解できない内容となっているものではないことなどから、被告案内資料の送付先選定が、本件契約情報中の契約者に関する情報に基づいて行われたと認めず、契約違反性を否定しています(19頁以下)。

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3 不競法2条1項13号の不正競争行為の成否

原告は、被告案内書面に保険契約に関する虚偽の内容が含まれているとして、役務内容誤認惹起行為性(不正競争防止法2条1項13号)を争点としました(22頁以下)。
しかし、裁判所は、虚偽の内容を含むものではなく、また需要者に誤認を生じさせる内容でもないとして、13号の該当性を否定しています。

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4 一般不法行為の成否

被告の書面複製行為から勧誘行為に亘る一連の行為は、公正な競争として社会的に許容される限度を超える違法な行為であるとして、一般不法行為(民法709条)が成立すると原告は主張しました(26頁)。
しかし、裁判所は、被告に少なくとも過失が認められる著作権侵害行為のほかは、一般不法行為が成立するものではないとして、これを否定しています。

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5 損害論

本件説明書面の著作権使用料相当額(114条3項)として15万円、また、弁護士費用相当額として10万円の合計25万円が損害額として認定されています(26頁以下)。

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■コメント

社会福祉法人向けの火災保険説明書面の無断複製があったことから、その書面の著作物性が争点となりました。
書面内容のアップがないためその詳細が分かりませんが、保険内容の改定や保険料率の改定幅といった、客観的な事実を伝える書面という性質からすると、表現の選択の幅が狭く、著作物性が否定されてもおかしくない事案だったかもしれません。
著作物性を否定しつつ、デッドコピー利用の点を捉えて一般不法行為論での処理も考えられるところですので(法律書籍事件 知財高裁平成18.3.15平成17(ネ)10095損害賠償等請求控訴事件参照)、引続き控訴審の判断を注視したいと思います。
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2011年12月31日

SARVH対東芝私的録画補償金事件(控訴審)−著作権 損害賠償請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

SARVH対東芝私的録画補償金事件(控訴審)

知財高裁平成23.12.22平成23(ネ)10008損害賠償請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 塩月秀平
裁判官      真辺朋子
裁判官      田邉 実

*裁判所サイト公表 2011.12.26
*キーワード:私的録画補償金、特定機器、協力義務、法律の委任

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■事案

私的録画補償金徴収の対象となる機器の特定と製造業者の協力義務の内容が争点となった事案の控訴審

控訴人 :私的録画補償金管理協会(SARVH)
被控訴人:株式会社東芝

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法30条2項、施行令1条2項3号、104条の5、民法709条

1 協力義務の法的意義
2 特定機器該当性
3 不法行為の成否


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■事案の概要

『被控訴人は,アナログチューナーを搭載しない原判決別紙製品目録1ないし5記載のDVD録画機器(「被控訴人製品」)を製造,販売するが,著作権法104条の2第1項2号の指定管理団体である控訴人は,被控訴人製品が著作権法30条2項所定のデジタル方式の録音又は録画の機能を有する「政令で定める機器」(特定機器)に該当するとの主張を前提にし,被控訴人においては著作権法104条の5所定の製造業者等の協力義務として,その購入者から被控訴人製品に係る私的録画補償金相当額を徴収して控訴人に支払うべき法律上の義務があるなどと主張し,控訴の趣旨のとおり私的録画補償金相当額の支払を求めている。』

『原審は,被控訴人製品はデジタルチューナーを搭載するだけでアナログチューナーを搭載しないが,それでも特定機器に該当すると判断しつつも,著作権法104条の5が規定する特定機器の製造業者等が負う協力義務は,控訴人の主張するような法律上の具体的な義務ではなく,法的強制力を伴わない抽象的な義務であると解されるから,被控訴人がその協力義務として被控訴人製品に係る私的録画補償金相当額の金銭を支払う義務を負うものと認めることはできず,控訴人主張の不法行為の成立も認められないとして,控訴人の請求を棄却した。』(2頁)

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■判決内容

<争点>

1 協力義務の法的意義

(1)「上乗せ徴収・納付」方式の法文上の不明確性

著作権法改正の経緯から、特定機器の製造業者等による法104条の5に基づく「協力」の内容として具体的に想定されていたのは、「特定機器の出荷価格に私的録画補償金相当額を上乗せして出荷し、利用者から当該補償金を徴収して、指定管理団体に対し当該補償金相当額の金銭を納付すること」(「上乗せ徴収・納付」方式)であったとした上で、上乗せ額を被控訴人に請求することができるとすべき根拠は法文上一義的に明確ではないと判断しています(24頁以下)。

(2)協力義務違反の可能性

もっとも、法は、補償金制度の実効性確保のため、録音・録画機器の提供を行っている製造業者等が、公平の観念上、権利者の報酬取得の実現について協力することを要請しており、特定機器の製造業者等は、「補償金の支払の請求及びその受領に関し」協力しなければならないとされたものであると控訴審は判断。
製造業者等が協力義務に違反したときに、指定管理団体(本件では控訴人)に対する直截の債務とはならないとしても、その違反に至った経緯や違反の態様によってはそれについて指定管理団体が被った損害を賠償しなければならない場合も想定されるとして、法104条の5違反ないし争点3(被控訴人による不法行為の成否)における控訴人主張を前提とする請求が成り立つ可能性があるとしています。

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2 特定機器該当性

著作権法施行令1条2項3号所定の「アナログデジタル変換によって行われた」影像を連続して固定する機能を有する機器との要件は、アナログ放送をデジタル変換して録画が行われることを規定したものであり、しかも、この変換は、DVD録画機器に搭載されるアナログチューナーからのアナログ信号を対象にするものであるとした上で、当該機器においてアナログチューナーを搭載しないDVD録画機器については、アナログデジタル変換が行われず、施行令1条2項3号該当性は否定されると判断。
被控訴人製品についてもデジタルチューナーのみを搭載する機器であるとして、被控訴人には法104条の5の義務違反があると認めることはできないと認定しています(27頁以下)。

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3 不法行為の成否

不法行為についても特定機器該当性を前提とする主張であるとして、その成立が否定されています(44頁)。

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■コメント

原審では、協力義務が抽象的な義務にすぎず、ただ、特定機器該当性は肯定するとしていましたが、控訴審では、協力義務の具体的義務の可能性を実態を踏まえて肯定した上で、ただ、特定機器該当性は否定するとして、結論としては、原審、控訴審いずれも原告サーブ敗訴の結果の判断となっています。

著作権法改正の経緯の詳細な検討を踏まえた上での判断ですが、技術の進展や利害関係の調整から曖昧な規定になったとすれば、立法技術としてその規定振りについては、今後より一層の配慮が求められるかもしれません。
著作権法では、規定の曖昧さが問題となった昭和28年問題(「シェーン」格安DVD事件 最高裁平成19.12.18など)がありましたが、2012年は、震災を契機にほぼ1年ストップしてしまった権利制限一般規定法案にも注目したいと思います。

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■過去のブログ記事

2011年01月24日記事
SARVH対東芝私的録画補償金事件

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■参考サイト

企業法務戦士の雑感(2011−12−23)
[企業法務][知財]「抜かずの宝刀」を抜いたツケ
(2011−12−29)
[企業法務][知財]手放しで喜べない知財高裁判決の危うさ〜私的録画補償金判決をめぐって

金子寛人(日経パソコン 2011/12/27)
SARVH対東芝、知財高裁の判決のポイントをひもとく−ニュース:ITpro

小寺信良「金曜ランチボックス」(有料配信メルマガ 2011年12月23日配信)
金曜ランチボックス Vol.008 <補償金裁判特別号>

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2011年12月27日

新刊案内 堀田貢得、大亀哲郎「編集者の危機管理術 名誉・プライバシー・著作権・表現」(青弓社)ほか

2011年もあと僅かになりました。今年も読み残しの書籍がたくさんあって、どうしたものかという感じです。
11月には、福井健策先生の御著書「ビジネスパーソンのための契約の教科書 」(文春新書)が刊行されて、新書版で容易に手にすることができる契約実務書としてお勧めの一冊でした。

お正月休みにでもご一読をお勧めしたい書籍として、12月の新刊本のなかから3冊をご案内させていただけたらと思います。

■2011年12月9日刊行
堀田貢得、大亀哲郎「編集者の危機管理術 名誉・プライバシー・著作権・表現」(青弓社)

出版にかかわる法務の諸問題を網羅した一冊で、出版関係者のかたには必携の書籍ではないでしょうか。
著作権だけでなく、表現の問題(宗教や差別)や商標、名誉、プライバシー、景表法、薬事法、不競法などなど、小学館の法務においでになった著者ならではの実例がふんだんに盛り込まれています。

青弓社

【目 次】

まえがき
第1章 「名誉毀損」「プライバシー侵害」訴訟は編集者の宿命
 1 「名誉毀損」「プライバシー侵害」訴訟に強くなろう
 2 メディア規制・高額賠償支払い判決続発までの舞台裏
 3 書籍にも「名誉毀損」「プライバシー侵害」の裁判例はこんなにある
 4 「名誉毀損」「プライバシー侵害」が出版差し止めになる場合
 5 「名誉毀損」「プライバシー侵害」をいかに防ぐか
 6 肖像権の侵害とは何か
第2章 盗用か、引用か――著作権侵害の境界は微妙
 1 著作権、何も知らないと大ケガをする!
 2 著作権法の基本の基本「著作物の利用とアイデアの利用 どこが違う?」
 3 昔片隅、いま主流、ますます増える著作権トラブル
 4 「引用」は、許可を求める必要もなければ、当然、支払いも無用
 5 著作権トラブルを防ぐ「これだけは要注意!」
 6 訴訟で負けると、こんな責めを負う。著作権侵害には刑事罰もある!
 7 著作権侵害の責めを負わない手段はあるか?
 8 出版社、編集部には「著作権」はほとんどない!?
 9 肖像権には経済的な利用の側面もある。パブリシティー権も必須知識だ!
第3章 「商標権侵害」「不正競争防止法」トラブルって何だ?
 1 出版社での商標権侵害のトラブル事例を総覧してみよう!
 2 過去の商標問題事例から、編集者の留意点を探る
 3 編集長になったら気をつけろ! 「商標に関する基礎知識」
 4 ライバル商品に要注意! 不正競争防止法のトラブル事例
 5 たまには訴える側にまわってみよう。攻撃法を知り防御策を磨け!
 6 デジタル化に必要な、商標登録の対応
 7 「特許庁」「弁理士」について知っておこう
 8 商標の管理にはお金がかかるのだ(商標管理費用)
第4章 「景品表示法」「製造物責任法」「薬事法」の落とし穴
 1 雑誌編集者には必須、「景品表示法」のルールを完全マスターせよ!
 2 広告、懸賞、懸賞告知、プレゼント、全員サービスなど、これは絶対「NO!」10例
 3 「情報」に製造物責任はない、でも、知っておきたい「PL法」
 4 本当は怖い「薬事法」の中身、「甘い話」は要注意!
 5 あなたが一般誌の編集者ならば、ここに気をつけよう
第5章 コミックはトラブルの百貨店と覚悟せよ
 1 「ステレオタイプな絵」「職業蔑視」など最も多い差別表現トラブル
 2 歴史的事実を描くコミックでは「歴史認識」の有無がトラブルの元になる
 3 性表現、暴力表現など「倫理観」は一般企業の専売特許ではない
 4 モデルは人・もの・団体・会社などが「実在しないか」確認せよ
 5 コミックにも「名誉毀損」訴訟は起きるのだ
 6 イスラム、ユダヤなど「宗教のタブー」にふれていないか
 7 コミックは「背景描写」でトラブルになりやすい
 8 特定の企業、ブランド品などを描くときは商標権について細心の注意を払え
第6章 文庫とコミックは「差別・不適切表現」の宝庫だと思え!
 1 差別・不適切表現が発覚すると人権団体に「抗議・糾弾」をされる場合がある
 2 「絶版本」の復刻、親本の「文庫化」の際は特に注意が必要
 3 編集者泣かせでは終わらない「屠場差別」表現は文庫の独壇場
 4 日本の差別の源流は「部落差別」だ
 5 障害者差別はコミックが最大の発生源
第7章 最強の編集者は「指摘・抗議・クレーム」への対応がうまい
 1 これからは「危機管理」に弱い編集者は生き残れない!
 2 抗議への対応の基本は「誠実さ」。編集者の横柄さ・慇懃無礼は事態を悪化させるだけ
 3 メールによるクレーム・抗議への鉄則は「メールで回答するな」
 4 文書による抗議には、まず差出人に「回答する」ことを連絡する
 5 代理人(弁護士)選任・依頼の可否判断は慎重に
 6 差別表現などによって、人権団体との協議が糾弾会に発展した場合
 7 エセ同和行為(物品販売、対価要求)は断固拒否すること
 8 政治結社などからの抗議には、その団体の「背景」を警察を通して確認をすることが先決
 9 「謝罪広告」掲載要求を伴う抗議には、弁護士の判断に従え
参考文献一覧
あとがき

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■2011年12月1日刊行
 高林 龍編著「著作権ビジネスの理論と実践2」(成文堂)

早稲田大学ロースクールの著作権法特殊講義を内容とする3冊目の書籍となります。
JASRAC寄附講座として広く公開され聴講も可能な講演形式が採られていたりと、高林先生ほか門下の皆様の意欲的な取り組みが大変印象的です。

成文堂 出版部

【目 次】

はしがき
第1回 ガイダンス─著作権法概観─
講師:高林 龍
第2回 著作権行政の現状と課題
講師:渋谷達紀/ゲスト:永山裕二
第3回 著作権行政の現状と課題
講師:渋谷達紀/ゲスト:永山裕二
第4回 レコード製作者の権利とその適用範囲
講師:今村哲也/ゲスト:安藤和宏
第5回 Googleブック(サーチ)を巡る著作権法上の諸課題
講師:平嶋竜太/ゲスト:鳥澤孝之
第6回 憲法による著作権の保護と制約・パロデイーをめぐる諸問題
(2010年5月22日開催の日本著作権法学会への参加)
第7回 文藝著作物に関する著作権法上の諸問題
講師:富岡英次
第8回 ディジタルコンテントビジネスと著作権
講師:竹中俊子/ゲスト:伊藤ゆみ子
第9回 著作権ライセンス契約のポイント
講師:竹中俊子/ゲスト寺澤幸裕
第10回 著作権の侵害主体
講師:今村哲也/ゲスト:奥邨弘司
第11回 いわゆる写り込み問題について
講師:前田哲男/ゲスト:中川達也
第12回 最近の著作権侵害訴訟の動向と注目点
講師:高林 龍/ゲスト:岡本 岳
第13回 設計図面などの機能的著作物における創作性について
講師:前田哲男
第14回 文藝著作物の引用について
講師:富岡英次

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■2011年12月10日刊行
 高林 龍、三村量一、竹中俊子編「年報知的財産法2011」(日本評論社)

商事法務から毎年刊行されていた知財年報が、今年は日本評論社より出されています。
著作権法の2011年の学説の動向について、安藤和宏先生と今村哲也先生がご担当されておいでで、一年の学説動向がよく分かります(58頁以下)。
本号の特集としては、「電子書籍をめぐる著作権法上の課題」(206頁以下)が取り上げられています。

日本評論社

【目 次】

[巻頭座談会]
 知的財産法の今日的論点をめぐって
 出席者/高林 龍・三村量一・竹中俊子
 司会/駒田泰土 コメント/中山一郎・安藤和宏 
[2011年 判例の動向]
 判例の動き/三村量一
[2011年 学説の動向]
 1著作権法/安藤和宏・今村哲也
 2特許法/加藤 幹
 3不正競争・商標・意匠/志賀典之・五味飛鳥
[2011年 政策・産業界の動向]
 政策・産業界の動き/中山一郎
[2011年 諸外国の動向]
 1米国における知財の動き/竹中俊子
 2欧州における知財の動き/アインゼル・フェリックス=ラインハルト.河辺幸代
 3WIPOをめぐる国際動向/高木善幸
 4中国における知財の動き/兪 風雷
 5韓国における知財の動き/張 睿暎
[特集]電子出版をめぐる著作権法上の課題
 1総論/上野達弘
 2電子出版時代の出版社の保護/横山久芳
 3電子書籍と著作権−読書環境の変化を中心に/島並 良
 4電子出版契約と権利処理/福井健策
written by ootsukahoumu at 08:27|この記事のURLTrackBack(0)著作権文献 

2011年12月26日

Winnyファイル共有ソフト刑事事件(上告審)−著作権 著作権法違反幇助被告事件決定(最高裁判所判例集)−

最高裁判所HP 最高裁判所判例集より

Winnyファイル共有ソフト刑事事件(上告審)

最高裁平成23.12.8平成21(あ)1900著作権法違反幇助被告事件PDF

裁判長裁判官 岡部喜代子
裁判官      那須弘平
裁判官      田原睦夫
裁判官      大谷剛彦
裁判官      寺田逸郎

*裁判所サイト公表 2011.12.21
*キーワード:Winny、P2P、幇助意思、公衆送信権

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■事案

「被告人がファイル共有ソフトであるWinnyをインターネットを通じて不特定多数の者に公開,提供し,正犯者がこれを利用して著作物の公衆送信権を侵害した事案につき,著作権法違反幇助罪に問われた被告人に幇助犯の故意が欠けるとされた事例」(裁判要旨)

被告人:研究者

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■結論

上告棄却

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■争点

条文 著作権法23条、119条、刑法62条1項

1 幇助犯の成立要件として「違法使用を勧める行為」まで必要か
2 幇助犯の故意の成否

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■事案の概要

『被告人が,ファイル共有ソフトであるWinnyを開発し,その改良を繰り返しながら順次ウェブサイト上で公開し,インターネットを通じて不特定多数の者に提供していたところ,正犯者2名が,これを利用して著作物であるゲームソフト等の情報をインターネット利用者に対し自動公衆送信し得る状態にして,著作権者の有する著作物の公衆送信権(著作権法23条1項)を侵害する著作権法違反の犯行を行ったことから,正犯者らの各犯行に先立つ被告人によるWinnyの最新版の公開,提供行為が正犯者らの著作権法違反罪の幇助犯に当たるとして起訴された事案』(1頁)

<経緯>

H14.4 被告人がWinny開発に着手
H14.12Winny1.00公開
H15.4 Winny1.14公開
H15.5 Winny2公開
H15.9 正犯者B、Cが公衆送信権侵害
H18.12.13 京都地裁 幇助犯の成立を認め、罰金150万円
H21.10.8  大阪高裁 一審破棄、無罪言い渡し

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■判決内容

<争点>

1 幇助犯の成立要件として「違法使用を勧める行為」まで必要か

原判決では、インターネット上における不特定多数者に対する価値中立ソフトの提供という本件行為の特殊性に着目して、「ソフトを違法行為の用途のみに又はこれを主要な用途として使用させるようにインターネット上で勧めてソフトを提供する場合」に限って幇助犯が成立すると判断していました。

これに対して上告審は、当該ソフトの性質(違法行為に使用される可能性の高さ)や客観的利用状況のいかんを問わずに、提供者において外部的に違法使用を勧めて提供するという場合のみに限定することに十分な根拠があるとは認め難く、刑法62条の解釈を誤ったものであるといわざるを得ない、と判断しています(5頁以下)。

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2 幇助犯の故意の成否

もっとも、Winnyの価値中立ソフトといった性格から、

『ソフトの提供者において,当該ソフトを利用して現に行われようとしている具体的な著作権侵害を認識,認容しながら,その公開,提供を行い,実際に当該著作権侵害が行われた場合や,当該ソフトの性質,その客観的利用状況,提供方法などに照らし,同ソフトを入手する者のうち例外的とはいえない範囲の者が同ソフトを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められる場合で,提供者もそのことを認識,認容しながら同ソフトの公開,提供を行い,実際にそれを用いて著作権侵害(正犯行為)が行われたときに限り,当該ソフトの公開,提供行為がそれらの著作権侵害の幇助行為に当たると解するのが相当である』(6頁以下)

と説示。本件では、

(1)被告人が現に行われようとしている基本的な著作権侵害を認識、認容しながら本件Winnyの公開、提供を行ったものではないことは明らかであること
(2)客観的に見て例外的とはいえない範囲の者がそれを著作権侵害に利用する蓋然性が高い状況の下での公開、提供行為であったことは否定できないこと
(3)被告人の主観面をみると、被告人は本件Winnyを公開、提供するに際して本件Winnyを著作権侵害のために利用するであろう者がいることや、そのような者の人数が増えてきたことについては認識していたと認められるものの、いまだ、被告人においてWinnyを著作権侵害のために利用する者が例外的とはいえない範囲の者にまで広がっており、本件Winnyを公開、提供した場合に例外的とはいえない範囲の者がそれを著作権侵害に利用する蓋然性が高いことを認識、認容していたとまで認めるに足りる証拠はない

として、結論としては、著作権法違反罪の幇助犯の故意を欠くとして、幇助犯の成立を否定しています。

なお、被告人に侵害的利用の高度の蓋然性についての認識と認容が認められるとする反対意見(大谷剛彦裁判官)が付されています(11頁以下)。

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■コメント

原判決がインターネット社会における新しい幇助犯の類型の基準を提示したものの、上告審はその基準は採用せずに幇助犯の故意を問題として主観面で処理し、原判決と同じく無罪の判断を下しています。

幇助犯の故意については、正犯者の実行行為によって基本的構成要件が実現されることの表象を必要とする見解もありますが(木村亀二、平場安治ほか)、正犯者が実行行為を行うことを表象すれば足りるとの見解もあります(大塚仁、大谷實ほか)。後者の見解に立つ場合、幇助行為と構成要件的結果との因果関係の認識を必要とせず、幇助行為の結果として、正犯の実行が容易になることの認識があれば足りることとなります(川端後掲書参照)。
また、幇助犯の故意は、未必的な故意で足りると考えられています(川端・西田ほか後掲書参照)。

大谷剛彦裁判官の反対意見があるように、主観面での評価が分かれていて、微妙な判断であることが窺われます。
本判決について、詳しくは、企業法務戦士の雑感さんの後掲ブログ記事を、また原判決に関する文献一覧については、藤本後掲論文をご覧頂けたらと思います。

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■参考文献

壇 俊光、金子 勇「ウィニー刑事事件判決について」『著作権法の新論点』(2008)39頁以下
藤本孝之「ファイル共有ソフトの開発提供と著作権侵害罪の幇助犯の成否−Winny事件」『知的財産法政策学研究』(2010)26号167頁以下 論文PDF
桑野雄一郎「著作権侵害の罪の客観的構成要件」『島大法学』(2010)54巻1、2号117頁以下 論文PDF
川端 博『刑法総論講義第二版』(2006)572頁以下
川端 博、西田典之、原田國男、三浦 守編『裁判例コンメンタール刑法第一巻』(2006)588頁以下

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■参考サイト

企業法務戦士の雑感
[企業法務][知財]Winny無罪は必然か?それともクリスマスの奇跡か?

壇弁護士の事務室(2011/12/21)
Winny弁護団コメント
金子勇コメント

誠 Biz.ID:Winny裁判と向き合って:取締役・金子勇が考えるエンジニアの未来、経営の明日(1−3)(2011年08月26日)

寄稿:小倉秀夫弁護士Winny裁判を考える なぜ「幇助」が認められたか(1−3)ITmediaニュース(2006年12月19日)
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2011年12月19日

「第(3)世界」着うた違法配信事件−著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「第(3)世界」着うた違法配信事件

東京地裁平成23.11.29平成23(ワ)16905損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官      上田真史
裁判官      石神有吾

*裁判所サイト公表 2011.12.12
*キーワード:音楽著作物、ジャスラック、着うた、違法配信、複製、公衆送信

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■事案

着うた等の音楽著作物を違法にインターネット配信していた事案の民事訴訟

原告:著作権等管理事業者
被告:携帯電話向け配信サイト運営者

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■結論

請求認容

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■争点

条文 著作権法

1 損害論

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■事案の概要

『著作権等管理事業者である原告が,原告が著作権を管理する音楽著作物のデータをレンタルサーバのハードディスクに蔵置し,携帯電話を使用してインターネットを利用する不特定多数の者の求めに応じて上記データをダウンロードさせた被告の行為が上記音楽著作物の複製権及び公衆送信権の侵害に当たる旨主張して,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償を求めた事案』(1頁以下)

<経緯>

H18.3 被告が着うた等の配信サービスを開始
H20.10被告が逮捕される
H21.2 被告が有罪判決を受ける

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■判決内容

<争点>

1 損害論

被告が公示送達による呼出しを受けたものの本件口頭弁論期日に出頭しておらず、裁判所は侵害論についてこれを肯定した上で、損害論については、

(1)使用料相当損害金(著作権法114条3項)

本件サイトにアップロードされていた1万8000件のファイルのうち、原告管理著作物は90%に当たるとした上で、使用料規程に基づき31ヶ月間の期間中の使用料相当損額金を算定。原告の主張通り、合計1億6089万5700円と判断されています(2頁以下)。

(2)弁護士費用

弁護士費用相当損害額として1000万円を認めています。

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■コメント

2009年に有罪判決を受けた携帯電話向け違法配信サイト運営者に対する民事訴訟となります。
1億7000万円もの損害額となっており、被告に賠償能力があるかどうか、実際に回収できるか困難さはあるものの、著作権管理事業者が権利者から預かった権利を適切に保護・管理している姿勢が示されています。

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■参考サイト

ジャスラックプレスリリース(2009年2月23日)
「第(3)世界」の違法配信サイトの運営者に懲役3年(執行猶予5年)罰金500万円の有罪判決

INTERNET Watch(2009/02/23 14:15)
違法着うた配信で罰金500万円、「第3世界」運営者に判決

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2011年12月16日

月光仮面DVD事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

月光仮面DVD事件

東京地裁平成23.11.29平成23(ワ)17393著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官      山門 優
裁判官      志賀 勝

*裁判所サイト公表 2011.12.12
*キーワード:映画の著作物、複製、頒布、サブライセンス契約

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■事案

テレビ映画作品「月光仮面」「快傑ハリマオ」のDVD製造販売サブライセンス契約上の再許諾権付与の有無が争点となった事案

原告:テレビ映画著作権管理会社
被告:CD・DVD製造販売会社

本件両作品:

1 「月光仮面」第1部「どくろ仮面」篇(全71回)
2 「快傑ハリマオ」第5部「風雲のパゴダ」篇(全13回)

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法21条、26条、114条3項

1 被告はアートステーションから本件両作品の複製及び頒布に係る利用権を得たか
2 被告の故意・過失
3 損害論

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■事案の概要

『テレビ映画の企画,製作及び販売並びに映像著作物の版権管理及び利用開発等を業とする原告が,CD・DVDの製造販売等を業とする被告において,故意又は過失により,原告から許諾を得ることなく,原告が著作権を有するテレビ映画作品「月光仮面」及び「快傑ハリマオ」をDVDに複製するとともに頒布することで原告の複製権及び頒布権を侵害したとして,被告に対し,著作権法112条1項に基づきDVD商品の複製及び頒布の差止めを求めるとともに,著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償を求める事案』(2頁)

<経緯>

H18.12 原告とアートステーションがライセンス契約締結
        アートステーションが株式会社サイドエーにDVD製造を依頼
        アートステーションがDVDを被告に販売
        サイドエーが倒産、アートステーションが被告にDVD製造を依頼
        被告が製造費回収のためDVDを販売
H20.6  被告が本件両作品をDVDに複製、販売

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■判決内容

<争点>

1 被告はアートステーションから本件両作品の複製及び頒布に係る利用権を得たか

被告は、アートステーションに対して本件両作品を4万5000枚のDVDに複製して頒布する対価として、1枚当たり50円(消費税別)のロイヤリティを支払い、アートステーションから本件両作品のDVDへの複製とその頒布の許諾を得たのであって、アートステーションから本件両作品の複製及び頒布に係る利用権を得ていたと反論しました。
しかし、裁判所は、アートステーションと原告との間のライセンス契約(本件契約)3条1項により、本件両作品の複製及び頒布の再許諾を禁じられていたことから、被告がアートステーションとの間で締結したライセンス契約によっては本件両作品の複製及び頒布に係る利用権を得ていないと判断しています(7頁以下)。

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2 被告の故意・過失

原告が本件両作品について有する著作権(複製権及び頒布権)を侵害したことに関する被告の過失について、裁判所は、DVDの製造販売業界では、再許諾を認めるとライセンス対象物の管理や広告宣伝、パッケージの表示内容、品質管理が困難となるため、再許諾を禁じるのが通常であること、また、アートステーションは、被告との間でライセンス契約を締結した当時、資金繰りに窮しており、被告への製造費も支払えなかったという事実があることを前提に判断。
被告がDVDの製造販売業者としてライセンサーである原告に対してアートステーションへの再許諾権付与の有無を問い合わせたり、アートステーションに対してライセンス契約書を提示させたりしてアートステーションが再許諾権を有しているか確認すべき注意義務を負っていたものの、被告は問い合わせや提示をさせるといったことをしていないとして、被告の過失を認定しています(8頁以下)。

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3 損害論

(1)著作権法114条3項による損害額

52.5円(一枚当たりの利用料相当額)×1万4000枚=73万5000円

(2)弁護士費用 7万3500円

合計80万8500円の損害額が認定されています(9頁以下)。

結論として、損害賠償とともに本件各商品の複製及び頒布の差止めを認めています。

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■コメント

テレビ映画作品「月光仮面」「快傑ハリマオ」のDVD製造販売サブライセンス契約に基づいサブライセンシーは製造販売したものの、実はそのサブライセンス契約上の再許諾権が裏付けのないものであったという事案です。
映像著作物のDVDパッケージ製造・販売の苦戦の様子が判決文から伺え、資金繰りの厳しさが伝わります。

written by ootsukahoumu at 06:20|この記事のURLTrackBack(0)知財判決速報2011 

2011年12月13日

北朝鮮映画事件(対フジテレビ)上告審−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(最高裁判所判例集)−

最高裁判所HP 最高裁判所判例集より

北朝鮮映画事件(対フジテレビ)上告審

最高裁平成23.12.8平成21(受)602著作権侵害差止等請求事件PDF

裁判長裁判官 櫻井龍子
裁判官      宮川光治
裁判官      金築誠志
裁判官      横田尤孝
裁判官      白木 勇

*裁判所サイト公表 2011.12.8
*キーワード:未承認国の著作物の保護義務、自然権論、インセンティブ論、一般不法行為論

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■事案

日本が国家として承認していない北朝鮮国民の著作物が日本の著作権法や民法でも保護されるかどうかが争われた事案の上告審

一審原告:朝鮮映画輸出入社(平壌:北朝鮮行政機関)
       映像企画制作仲介会社(東京)
一審被告:フジテレビ

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■結論

その他

裁判要旨
『1 文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約に我が国が国家として承認していない朝鮮民主主義人民共和国が事後に加入した場合において,我が国が朝鮮民主主義人民共和国との間で同条約に基づく権利義務関係は発生しないという立場を採っている以上,同国の国民の著作物である映画は,著作権法6条3号所定の著作物には当たらない
2 著作権法6条各号所定の著作物に該当しない著作物の利用行為は,同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成しない』

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■争点

条文 著作権法6条3号、民法709条

1 北朝鮮著作物の我が国における著作権法上の保護の可否
2 一般不法行為の成否

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■事案の概要

『本件は,平成21年(受)第602号被上告人・同第603号上告人(以下「1審原告X1」という。)及び平成21年(受)第603号上告人(以下「1審原告X2」といい,1審原告X1と1審原告X2を併せて「1審原告ら」という。)が,朝鮮民主主義人民共和国(以下「北朝鮮」という。)で製作された原判決別紙映画目録1記載1nの映画(以下「本件映画」という。)の一部を1審原告らの許諾なく放送したAを承継した平成21年(受)第602号上告人・同第603号被上告人(以下「1審被告」という。)に対し,(1)主位的に,本件映画を含む北朝鮮で製作された同目録1ないし3記載の各映画(以下「本件各映画」という。)は北朝鮮の国民の著作物であり,文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約(以下「ベルヌ条約」という。)により我が国が保護の義務を負う著作物として著作権法6条3号の著作物に当たると主張して,本件各映画に係る1審原告X2の公衆送信権(同法23条1項)が侵害されるおそれがあることを理由に,1審原告X2において本件各映画の放送の差止めを求めるとともに,Aによる上記の放送行為は,本件各映画について1審原告X2が有する公衆送信権及び1審原告X1が有する日本国内における利用等に関する独占的な権利を侵害するものであることを理由に,上記各権利の侵害による損害賠償を請求し,(2)原審において,予備的に請求を追加し,仮に本件映画が同法による保護を受ける著作物に当たらないとしても,上記放送行為は,1審原告らが本件映画について有する法的保護に値する利益の侵害に当たると主張して,不法行為に基づく損害賠償の支払を求める事案』(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 北朝鮮著作物の我が国における著作権法上の保護の可否

原審において、本件各映画が著作権法6条3号の「条約によりわが国が保護の義務を負う著作物」とはいえないと判断された点について、以下のように原審の判断を是認しています(5頁以下)。

『 一般に,我が国について既に効力が生じている多数国間条約に未承認国が事後に加入した場合,当該条約に基づき締約国が負担する義務が普遍的価値を有する一般国際法上の義務であるときなどは格別,未承認国の加入により未承認国との間に当該条約上の権利義務関係が直ちに生ずると解することはできず,我が国は,当該未承認国との間における当該条約に基づく権利義務関係を発生させるか否かを選択することができるものと解するのが相当である。』

『 これをベルヌ条約についてみると,同条約は,同盟国の国民を著作者とする著作物を保護する一方(3条(1)(a)),非同盟国の国民を著作者とする著作物については,同盟国において最初に発行されるか,非同盟国と同盟国において同時に発行された場合に保護するにとどまる(同(b))など,非同盟国の国民の著作物を一般的に保護するものではない。したがって,同条約は,同盟国という国家の枠組みを前提として著作権の保護を図るものであり,普遍的価値を有する一般国際法上の義務を締約国に負担させるものではない。』

『 そして,前記事実関係等によれば,我が国について既に効力を生じている同条約に未承認国である北朝鮮が加入した際,同条約が北朝鮮について効力を生じた旨の告示は行われておらず,外務省や文部科学省は,我が国は,北朝鮮の国民の著作物について,同条約の同盟国の国民の著作物として保護する義務を同条約により負うものではないとの見解を示しているというのであるから,我が国は,未承認国である北朝鮮の加入にかかわらず,同国との間における同条約に基づく権利義務関係は発生しないという立場を採っているものというべきである。』

『 以上の諸事情を考慮すれば,我が国は,同条約3条(1)(a)に基づき北朝鮮の国民の著作物を保護する義務を負うものではなく,本件各映画は,著作権法6条3号所定の著作物には当たらないと解するのが相当である。』

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2 一般不法行為の成否

原審では、テレビ局側の一般不法行為の成立が肯定されていましたが、この点について最高裁は以下のように述べてその成立を否定しました(7頁以下)。

『 著作権法は,著作物の利用について,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に独占的な権利を認めるとともに,その独占的な権利と国民の文化的生活の自由との調和を図る趣旨で,著作権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,独占的な権利の及ぶ範囲,限界を明らかにしている。同法により保護を受ける著作物の範囲を定める同法6条もその趣旨の規定であると解されるのであって,ある著作物が同条各号所定の著作物に該当しないものである場合,当該著作物を独占的に利用する権利は,法的保護の対象とはならないものと解される。したがって,同条各号所定の著作物に該当しない著作物の利用行為は,同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。』

『 これを本件についてみるに,本件映画は著作権法6条3号所定の著作物に該当しないことは前記判示のとおりであるところ,1審原告X1が主張する本件映画を利用することにより享受する利益は,同法が規律の対象とする日本国内における独占的な利用の利益をいうものにほかならず,本件放送によって上記の利益が侵害されたとしても,本件放送が1審原告X1に対する不法行為を構成するとみることはできない。』

『 仮に,1審原告X1の主張が,本件放送によって,1審原告X1が本件契約を締結することにより行おうとした営業が妨害され,その営業上の利益が侵害されたことをいうものであると解し得るとしても,前記事実関係によれば,本件放送は,テレビニュース番組において,北朝鮮の国家の現状等を紹介することを目的とする約6分間の企画の中で,同目的上正当な範囲内で,2時間を超える長さの本件映画のうちの合計2分8秒間分を放送したものにすぎず,これらの事情を考慮すれば,本件放送が,自由競争の範囲を逸脱し,1審原告X1の営業を妨害するものであるとは到底いえないのであって,1審原告X1の上記利益を違法に侵害するとみる余地はない。』

『 したがって,本件放送は,1審原告X1に対する不法行為とはならないというべきである。』

結論として、1審被告の上告に基づき、原判決中1審被告敗訴部分を破棄して、同部分につき1審原告X1の請求を棄却するなどされています。

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■コメント

「未承認国家との権利義務関係を発生させるかは我が国の選択の問題」、その選択問題と著作権法の制度趣旨(自然権論かインセンティブ論)、「特段の事由がない限り」の文言に起因する一般不法行為成立の要件論の問題と、論点については端的に今村頼太先生がご指摘でおいでですが(Twitter @Raita_Imanishi)、国際法上の論点とともに知的財産法制で保護されない場合の民法の一般不法行為論での保護の可否についてさらに研究が深まることが期待されます。

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■過去のブログ記事

原審(2009年1月10日記事)
北朝鮮映画事件(対フジテレビ)控訴審

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■参考判例

原審(知財高裁平成20.12.24平成20(ネ)10011 )

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■参考文献

前掲ブログ記事掲載の論文のほか、

今西頼太「著作権非侵害行為と一般不法行為」『同志社法学』60巻7号(2009)1177頁以下論文PDF
窪田充見「不法行為法と知的財産法の交錯」『著作権研究』36号(2010)29頁以下
張 睿暎「未承認国の著作物と不法行為−北朝鮮映画放映事件−」同上書182頁以下
田村善之ほか「シンポジウム 著作物の隣接領域と著作権法」同上書1頁以下
田村善之「民法の一般不法行為法による著作権法の補完の可能性について」『コピライト』607号(2011)40頁以下

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■参考サイト

企業法務戦士の雑感
■[企業法務][知財]最後の最後で使われた切り札。〜北朝鮮映画著作権事件の決着
written by ootsukahoumu at 09:06|この記事のURLTrackBack(0)知財判決速報2011 

2011年12月08日

マンモスCT画像3DCG事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

マンモスCT画像3DCG事件

東京地裁平成23.11.29平成22(ワ)28962著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官      大西勝滋
裁判官      石神有吾

*裁判所サイト公表 2011.12.3
*キーワード:著作物性、著作者、複製権、譲渡権、著作者人格権、使用許諾

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■事案

マンモス標本のCT画像を加工した3DCG画像の著作物性、使用許諾の有無などが争点となった事案

原告:研究者
被告:出版社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、19条、20条、21条、26条の2

1 本件各画像の著作物性
2 本件各画像の著作権侵害性の成否
3 本件各画像の著作者人格権侵害の成否
4 原告の損害額

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■事案の概要

『原告が,別紙書籍目録記載の書籍(以下「本件書籍」という。)を発行及び頒布した被告に対し,本件書籍の本文中に掲載された別紙1記載の各画像(以下,同目録記載の上段の画像を「被告画像1」,下段の画像を「被告画像2」という。)及び本件書籍の表紙カバーに掲載された別紙2記載の画像(以下「被告画像3」といい,被告画像1ないし3を併せて「被告各画像」という。)は,原告が「マンモス」の標本のX線CTデータ等を基に3次元コンピュータグラフィックス(以下「3DCG」という。)により作成した著作物である別紙3記載の各画像(以下,同別紙記載の「1」の画像を「本件画像1」,同別紙記載の「2」の画像を「本件画像2」といい,これらを併せて「本件各画像」という。)を原告に無断で一部改変して複製したものであり,かつ,本件書籍の表紙カバーに原告の氏名が表示されていないから,被告による本件書籍の発行及び頒布は,原告が本件各画像について有する著作権(複製権,譲渡権)及び著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権)の侵害に当たる旨主張して,著作権法112条1項に基づき,本件書籍から被告各画像を削除しない限り本件書籍の発行又は頒布の差止めを,同条2項に基づき,本件書籍からの被告各画像の削除を求めるとともに,不法行為に基づく損害賠償を求めた事案』(2頁)

<経緯>

H15 愛知万博でのマンモス展示プロジェクト開始
H17 記者会見で原告が本件画像を公表
     愛知万博開催
H19 被告社員が原告に画像の提供と使用許諾を求めるメールを送信
     原告が被告社員に画像データと借用書を送信
H21 被告が本件書籍を刊行

本件書籍 藤井正司著「CTは魔法のナイフ」

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■判決内容

<争点>

1 本件各画像の著作物性

(1)本件各画像の著作物性

マンモスの頭部標本のX線CT画像(二次元)を元に三次元再構築モデルを作成、これらに基づいて作成された3DCG画像の著作物性(著作権法2条1項1号)がまず争点となっています(23頁以下)。
被告は、本件各画像上の原告の工夫は、ごくありふれた表現方法であったり、画像を見やすくするための技術的調整等にすぎないとして、これらの点は本件各画像の創作性の根拠とはならないと反論しました。
これに対して、裁判所は、いずれの画像も自動的に生成されるものではなく(本件画像1)、また、合成するなどして作成したもので(本件画像2)、美術的又は学術的観点からの作者の個性が表現されていると判断。創作性(著作物性)を肯定しています。

(2)本件各画像の著作者及び著作権者

本件各画像の作成には、原告及び研究所スタッフが関与していたことから、原告の著作者性及び著作権の帰属が次に争点となっています(29頁以下)。
この点について、裁判所は、具体的な作成作業を主導的に行った者は原告であり、本件スタッフは、原告の指示、監督の下で与えられた作業に従事していた補助者であったと認定。原告の著作者性を肯定するとともに、著作権についても原告に帰属していると判断しています。

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2 本件各画像の著作権侵害性の成否

被告画像1ないし3が本件各画像を複製したものであることが認められ、また、本件書籍の本文中に掲載することについて原告の許諾があったとも認められないとして、被告の本件書籍の発行、頒布行為による著作権(複製権、譲渡権)侵害性が肯定されています(31頁以下)。

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3 本件各画像の著作者人格権侵害の成否

被告各画像においてカラー画像を白黒画像に改変するなどしている点が、著作者の意に反する改変(20条1項)に該当し原告の同一性保持権を侵害すると判断されています。また、本件書籍の表紙カバーに掲載された被告画像3には原告の氏名が表示されていなかったことから、氏名表示権(19条1項)侵害性も肯定されています(40頁以下)。

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4 原告の損害額

裁判所は、被告の過失を認めた上で、慰謝料(30万円)及び弁護士費用相当額(20万円)の合計50万円を損害額として認定しています(43頁)。

結論として、損害賠償請求のほか、本件各画像についての著作権及び著作者人格権の侵害行為の停止又は予防のために著作権法112条1項及び2項に基づき、本件書籍のうち、被告各画像部分を削除しない限りでの本件書籍の発行等の差止め及び本件書籍からの被告各画像部分の削除を求める請求が認められています。

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■コメント

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本件書籍の表紙カバーより(右上のマンモス画像)

本件書籍は、CT技術開発者である筆者が一般向けにCTが非破壊検査や事故解析に利用されていることを解説する内容のものですが、画像提供者である原告と被告出版社の編集者との間のやりとりの経緯を判決文で見る限り、ずいぶんと出版社の編集者も配慮を欠く仕事をしている印象を受けます(33頁以下参照)。
争点は、原告が本件書籍への画像の掲載使用を許諾したかどうかですが、あとがきには、画像提供先への謝辞も名前を挙げて述べられており(本件書籍174頁)、これで事足りると編集者としては考えたのかもしれません。しかし、最終稿確認を画像使用の条件とする原告の意向に沿わないままメールでのやりとりに終始し、最終稿確認対応を放置して本書を出版した被告出版社側の過失は、認められても仕方がないと思われます。
written by ootsukahoumu at 06:22|この記事のURLTrackBack(1)知財判決速報2011