2016年09月15日

雑誌「プレジデント」記事翻案事件−著作権 著作権侵害および名誉侵害行為に対する損害賠償事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

雑誌「プレジデント」記事翻案事件

東京地裁平成28.8.19平成28(ワ)3218著作権侵害および名誉侵害行為に対する損害賠償事件PDF
別紙1

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 東海林 保
裁判官    古谷健二郎
裁判官    広瀬 孝

*裁判所サイト公表 2016.9.12
*キーワード:翻案権、同一性保持権、名誉・声望権

   --------------------

■事案

雑誌に掲載された記事を要約してウェブサイトに転用されたとして著作権侵害性などが争点となった事案

原告:映画プロデューサー
被告:新聞社

   --------------------

■結論

請求棄却

   --------------------

■争点

条文 著作権法2条1項1号、27条、113条6項

1 翻案権侵害の成否
2 同一性保持権侵害の成否
3 名誉・声望権侵害の成否
4 社会的評価の低下の有無
5 真実性の抗弁ないし公正な論評の抗弁の成否

   --------------------

■事案の概要

『本件は,原告が,被告の運営するウェブサイト上の記事により著作権(翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権,名誉・声望権)を侵害され,また名誉を毀損されたと主張して,被告に対し,(1)著作権侵害,著作者人格権侵害ないし名誉毀損の不法行為に基づき,損害合計340万円及びこれに対する不法行為の後の日(本訴状送達の日の翌日)である平成28年2月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,(2)著作権法115条ないし民法723条に基づき,被告のウェブサイトへの謝罪文の掲載を求めた事案である。』(1頁以下)

<経緯>

H27.02 雑誌「プレジデント」に原告記事掲載
H27.11 被告運営のウェブサイトに被告記事掲載

原告記事:「なぜ東京国際映画祭は世界で無名なのか」
     『プレジデント』2015年11月2日号

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 翻案権侵害の成否

裁判所は、著作物の翻案(著作権法27条)の意義について言及した上で、原告と被告の具体的な表現について検討を加えています(8頁以下)。
原告は、被告各表現が原告各表現と同一性を有する部分として、

(1)映画産業の国際発展を妨げている利権構造批判
(2)東京国際映画祭の事業費、事業委託先及びその関係
(3)映画産業の既得権益たる社会的集団を「映画村」と表現し、その状態を「独占」と表現したこと
(4)平成26年の映画祭事業費と委託費の割合
(5)既得権益を構成する企業名
(6)東京国際映画祭とクールジャパン政策の連携

等を挙げました。

しかし、このうち(3)以外は原告の思想、感情又はアイデア、事実又は事件など、表現それ自体でない部分についての同一性を主張するものにすぎないと判断。
また、(3)のうち「独占」との表現は一般用語であり表現上の創作性はなく、さらに、「映画村」との表現についても、ある特定の限られた分野又は共通の利害関係を有する一定の社会的集団を「○○村」と表現することは経験則上一般にみられるありふれた表現であると裁判所は判断。
結論として、いずれの表現についても被告各表現は、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において原告各表現と同一性を有するにすぎず、表現上の本質的な特徴の同一性を維持したものとは認められないとして、被告各表現が原告各表現を翻案したものであるということはできないと判断しています。

   --------------------

2 同一性保持権侵害の成否

争点1の通り、被告各表現が原告各表現の表現上の本質的な特徴の同一性を維持したものとは認められないことから、被告記事は原告記事の表現上の本質的特徴を直接感得することができない別個の著作物であって、原告記事を改変したものということはできないと裁判所は判断。
結論として、被告記事によって原告記事に係る原告の同一性保持権が侵害されたということはできないと判断しています(10頁)。

   --------------------

3 名誉・声望権侵害の成否

原告は、被告記事の中に「それにもかかわらず、未だ東京国際映画祭は批判の格好の的になっており、映画祭に対する厳しい批判は毎年の恒例行事のようなものになっている。そして、今回それを行ったのが映画プロデューサーの甲であった」として原告記事を紹介していることが、日本の映画産業発展のための生産的議論にすることを目的とした原告の意図と著しく異なる意図を持つものとして受け取られる可能性があることを理由として、原告の名誉・声望権を侵害すると主張しました。

この点について、裁判所は、著作権法113条6項の「名誉又は声望を害する方法」とは、単なる主観的な名誉感情の低下ではなく、客観的な社会的、外部的評価の低下をもたらすような行為をいい、対象となる著作物に対する意見ないし論評などは、それが誹謗中傷にわたるものでない限り、「名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」に該当するとはいえないというべきであると説示。
そして、原告が指摘する被告記事の上記表現部分は、被告記事の著者の原告記事に対する意見ないし論評又は原告記事から受けた印象を記載したものにすぎず、原告又は原告記事を誹謗中傷するものとは認められないとして、たとえ、被告記事の表現によって、原告の意図と著しく異なる意図を持つものとして受け取られる可能性があるとしても、そのことをもって、原告の「名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」と認めることは相当でないと判断。
結論として、被告記事によって原告記事に係る原告の名誉・声望権が侵害されたということはできないと判断しています(10頁以下)。

   --------------------

4 社会的評価の低下の有無

原告は、被告記事の記載が原告の社会的評価を低下させるものであると主張し、その理由として(1)被告記事には原告が「東京国際映画祭と日本映画全般のがっかりするような国際的な地位」と述べた旨の記載があるが、原告記事にはそのような表現、論述は一切存在しないこと、また、(2)被告は大幅な要約を行ったこと、の2点を挙げました。
この点について、裁判所は、被告記事の記載が原告の社会的評価を低下させるものであるかどうかは被告記事それ自体についての一般読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきことになるところ、原告記事に同様の表現、論述が存在しないとか、被告記事がこれを大幅に要約したなどという事情は被告記事の記載が原告の社会的評価を低下させるものであることの理由とはなり得ないと判断。
結論として、被告記事が原告の社会的評価を低下させるものであるとの原告の主張は理由がなく、被告記事による名誉毀損は成立しないと判断しています(11頁以下)。

   --------------------

5 真実性の抗弁ないし公正な論評の抗弁の成否

結論としては、被告記事に名誉毀損としての違法性があるということはできず、原告の名誉毀損に基づく請求は理由がないと裁判所は判断しています(12頁以下)。

   --------------------

■コメント

被告新聞社が運営する英語ニュースサイトでの記載が問題となった事案です。本人訴訟となりますが、別紙にある著作物対比表をみると表現部分の内容が良く分かります。著作権侵害性や名誉毀損についていずれも原告の主張は認められていません。
written by ootsukahoumu at 06:45|この記事のURLTrackBack(0)知財判決速報2016 

2016年08月25日

乳幼児用浮き輪取扱説明書事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

乳幼児用浮き輪取扱説明書事件

東京地裁平成28.7.27平成27(ワ)13258著作権侵害差止等請求事件PDF
別紙1(説明文対比表1)
別紙2(説明文対比表2)
別紙3(挿絵対比表)

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官    鈴木千帆
裁判官    笹本哲朗

*裁判所サイト公表 2016.8.18
*キーワード:取扱説明書、著作物性、二次的著作物、複製、テクニカルライター

   --------------------

■事案

乳幼児用浮き輪の取扱説明書の挿絵や文言の流用の著作権侵害性が争点となった事案

原告:玩具、ベビー用品輸入販売会社
被告:直輸入品卸売販売会社

   --------------------

■結論

請求一部認容

   --------------------

■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条

1 著作権及び著作者人格権侵害の成否
2 差止請求及び廃棄・消去請求の当否
3 損害賠償請求について

   --------------------

■事案の概要

『1 本件は,「スイマーバ」という商品名の乳幼児用浮き輪(以下「本件商品」という。)の日本における総代理店である原告が,自らが日本国内において本件商品を販売する際に同封している説明書(以下「原告説明書」という。)中の別紙原告説明文目録記載(1)ないし(11)の説明文(以下,それぞれ「原告説明文1」ないし「原告説明文11」といい,これらを併せて「原告説明文」という。)及び別紙原告挿絵目録記載(1)ないし(6)の挿絵(以下,それぞれ「原告挿絵1」ないし「原告挿絵6」といい,これらを併せて「原告挿絵」という。)は,職務著作として原告が著作者となるところ,直輸入品の販売等を営む被告が,平成26年12月5日から平成27年3月16日までの間,日本国内において本件商品を販売する際に同封した説明書(以下「被告説明書」という。)中の別紙被告説明文目録記載(1)ないし(11)の説明文(以下,それぞれ「被告説明文1」ないし「被告説明文11」といい,これらを併せて「被告説明文」という。)及び別紙被告挿絵目録記載(1)ないし(6)の挿絵(以下,それぞれ「被告挿絵1」ないし「被告挿絵6」といい,これらを併せて「被告挿絵」という。)は,原告説明文及び原告挿絵を複製したものであり,被告は原告の複製権及び譲渡権並びに著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)を侵害した旨主張して,被告に対し,(1)著作権法112条1項に基づき,上記著作権の侵害の停止又は予防として,被告説明文及び被告挿絵が記載された説明書の複製及び譲渡の差止めを求めるとともに,(2)同条2項に基づき,上記著作権の侵害の停止又は予防に必要な措置として,被告説明書の廃棄並びに被告説明文及び被告挿絵の電磁的記録の消去を求め,併せて,(3)民法709条に基づき,損害賠償金127万円(著作権侵害による著作権法114条2項に基づく損害50万円,著作者人格権の侵害による慰謝料50万円及び弁護士費用相当損害27万円の合計額)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成27年5月31日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』(2頁以下)

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 著作権及び著作者人格権侵害の成否

(1)被告説明文について

被告説明文による原告説明文に係る著作権侵害の成否について、まず、原告説明文1乃至11と被告説明文1乃至11及び原告説明文に関し、裁判所は説明文の性質上、表現方法・表現形式の選択の幅は限られていること(創作性判断)、また、原告説明文は商品製作者であるモントリー社が作成した英文の取扱説明書(モントリー説明書)を原告が日本語に翻訳した上でこれを修正して作成されたものであることから、原告説明文において新たに追加・変更された部分についてのみ、侵害性判断の対象となる(二次的著作物の著作権判断)と説示。その上で、個々的に検討がされています。

・本件商品の取扱説明書において本件商品の用途や使用上の注意事項等を通常の仕方で表現したものは、全く個性の発揮が見られず創作性がない
・「強制」や「禁止」を示す記号の用い方について、製品の取扱説明書においてありふれたものであるから創作性は認められない
・モントリー説明書において言及がある部分については、原告説明文において新たに付与された部分とはいえない
・空気入れビニールおもちゃに関する一般社団法人日本玩具協会によるガイドライン(本件ガイドライン)に依拠して作成された部分には原告の創作性は認められない

等として、結論として、共通する部分に創作性を認めることは困難である、あるいは、少なくとも原告説明文において新たに付与された創作的部分であるとは認められないなどとして、被告説明文による11点すべての著作権侵害性を否定しています(12頁以下)。

次に、被告説明文の記載順序について、裁判所は、原告説明文と被告説明文とは、原告説明文2ないし10と被告説明文2ないし10の記載順序が共通しているものの、この順序は説明書を読む順序や本件商品を使用する際の手順に沿ったものであるとして、創作性を否定しています(28頁)。

(2)被告挿絵について

本件挿絵1ないし3は著作物には当たらないが、本件挿絵4ないし6は著作物に当たると裁判所は判断。被告挿絵4ないし6は、それぞれ、著作物たる原告挿絵4ないし6を複製したと判断しています(28頁以下)。

(3)原告挿絵の著作者・著作権者について

原告挿絵は、株式会社プリモパッソが原告からの委託に基づき作成したものであるところ、その著作権はプリモパッソから原告に譲渡されたことが認められ、原告挿絵を創作した著作者はプリモパッソであり、著作権者は原告であると裁判所は認定しています(34頁以下)。

(4)著作権侵害の成否

被告が被告挿絵4ないし6を含む被告説明書を作成し、これを同封して本件商品を販売したことは、原告挿絵4ないし6に係る原告の複製権及び譲渡権を侵害すると裁判所は判断しています(34頁)。

(5)著作者人格権侵害の成否

被告説明文について、原告説明文に係る著作者人格権侵害を認めることはできず、また、原告挿絵については、プリモパッソが著作者であることから、原告の著作者人格権を侵害したものとは認められないと裁判所は判断しています(34頁)。

   --------------------

2 差止請求及び廃棄・消去請求の当否

現時点においても、被告が、被告挿絵4ないし6を含む被告説明書を複製、頒布して、これにより原告挿絵4ないし6に係る原告の複製権及び譲渡権を侵害するおそれがあると認められると裁判所は判断。
上記侵害のおそれを理由とする原告の被告に対する著作権法112条1項に基づく差止請求には理由があり、また、同条2項に基づく侵害の停止又は予防に必要な措置として、被告の占有に係る被告説明書のうち被告挿絵4ないし6の記載部分の廃棄又は抹消を求める請求及び被告挿絵4ないし6の電磁的記録の記録媒体からの消去を求める請求にも理由があると判断しています(34頁以下)。

   --------------------

3 損害賠償請求について

(1)著作権侵害による著作権法114条2項に基づく損害 3万円
(2)弁護士費用相当額損害 10万円

合計13万円(35頁以下)

   --------------------

■コメント

対照表が別紙として添付されており、比較しやすいです。説明文も挿絵もほぼ、デッドコピーです。挿絵4、5、6ともなるとイラストの著作物性も肯定されやすく、裁判所の侵害性肯定の判断は納得できるところです。
原文が英語文でその部分については日本代理店に著作権がなく、日本語説明文で新たに創作された部分もわずかであることも相まって、原告制作の説明文部分での著作権侵害性は判断が難しいところでした。これが、原文部分も原告制作の説明文であれば、デッドコピー事案ということもあり、あるいは結論は違っていたかもしれません。
日本の販売総代理店としては、独自イラストのほか、創作性のある説明文をある程度の分量で原文に追加するなどすれば、取扱説明書流用対策に一層効果的だったかと考えられます。
なお、取扱説明書の著作物性については、先日、パン切断装置取扱説明書事件(大阪地裁平成28.7.7平成26(ワ)2468特許権侵害差止等請求事件)が公表されたばかりです。

   --------------------

■過去のブログ記事

パン切断装置取扱説明書事件
2016年08月16日記事
written by ootsukahoumu at 06:54|この記事のURLTrackBack(0)知財判決速報2016 

2016年08月22日

WEB版顧客・販売管理システム事件−著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

WEB版顧客・販売管理システム事件

東京地裁平成28.8.3平成28(ワ)29129損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官    笹本哲朗
裁判官    天野研司

*裁判所サイト公表 2016.8.18
*キーワード:譲渡権、貸与権、プログラム

   --------------------

■事案

納品されたソフトウェアの利用関係を巡って争われた事案

原告:ソフト制作会社
被告:通信機器販売会社

   --------------------

■結論

請求棄却

   --------------------

■争点

条文 著作権法26条の2、26条の3

1 譲渡権の侵害行為性
2 貸与権の侵害行為性

   --------------------

■事案の概要

『第2 請求原因(原告の主張)
1 原告の有する著作権(プログラムの著作権)
原告の代表者及び従業員は,原告の発意に基づき,原告の職務上,別紙プログラム目録記載の各ソフトウェアプログラム(以下,同目録の番号に対応して「本件プログラム1」などといい,本件プログラム1ないし同3を併せて「本件各プログラム」という。)を作成した。
2 被告による著作権侵害行為
(1) 譲渡権(著作権法26条の2)の侵害行為
ア 被告は,平成26年9月18日から平成27年9月30日までの間に,次のとおり,本件各プログラムを改変して被告の顧客のコンピュータやサーバーにインストールした。
 番号  顧客名  提供したプログラム
(1)高齢者住宅タウンカワサキ 本件プログラム3
(2)株式会社ヒューテック  本件プログラム1,同3
(3)フジ建材リース株式会社 本件プログラム1
(4)荒畑園 本件プログラム3
 なお,上記番号(3)及び(4)に関し,被告は,平成28年4月11日の本件第2回弁論準備手続において陳述した同年3月30日付け準備書面1により,「フジ建材リース向けソフトウェア及び荒畑園向けソフトウェアは,平成26年9月の時点では完成しておらず,その後,被告自身がこれを完成させて納品したものである。」として,譲渡の事実を認めている。
イ 上記アの行為は,本件各プログラムをその原作品又は複製物の譲渡により公衆に提供するものであり,原告が有する本件各プログラムの譲渡権を侵害する行為に当たる。
(2) 貸与権(著作権法26条の3)の侵害行為
ア 被告は,平成26年9月18日から平成27年9月30日までの間に,次のとおり,本件各プログラムをレンタルサーバ上に設置した上,被告の顧客にインターネットを通じて本件各プログラムを使用させた。
 番号 顧客名 提供したプログラム
(5)有限会社チア 本件プログラム2
(6)アセットフィルド株式会社 本件プログラム3
(7)時空間 本件プログラム1
(8)株式会社オフィスオパ 本件プログラム3
(9)有限会社DFI 本件プログラム1
(10)株式会社サティスファクション 本件プログラム1
 なお,上記番号(9)に関し,被告は,平成28年4月11日の本件第2回弁論準備手続において陳述した同年3月30日付け準備書面1により,「平成26年9月時点で実際に使用されていたのは,・・・DFI向けソフトウェアの2点だけであり,しかも後者(判決注:DFI向けソフトウェアを指す。)については遅くとも平成26年12月までに全く使用されなくなった。」として,少なくとも平成26年12月までの貸与の事実を認めている。
 また,上記番号(5)に関し,甲第1号証によれば,現在も,有限会社チアが本件プログラム2を使用していることが認められるから,被告による貸与の事実が推認されるというべきである。
イ 上記アの行為は,本件各プログラムをその複製物の貸与により公衆に提供するものであり,原告が有する本件各プログラムの貸与権を侵害する行為である。なお,ここにいう「複製物」とは,被告の顧客のパソコンを指すものである。
3 被告の故意又は過失
 被告は,原告の有する本件各プログラムの譲渡権又は貸与権を侵害することにつき,故意又は過失があった。
4 原告が受けた損害の額
 本件各プログラムの著作権の行使につき原告が受けるべき金銭の額は,プログラムの個数,譲渡又は貸与先の数を問わず,1か月につき16万2000円(消費税を含む。)である。
 したがって,平成26年9月18日から平成27年9月30日までの被告の行為により原告が受けた損害の額は,201万4200円と計算される。
5 よって,原告は,著作権(譲渡権又は貸与権)侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき,被告に対し,損害賠償金201万4200円の支払を求める。』(1頁以下)

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 譲渡権の侵害行為性

原告は、被告が平成26年9月18日から平成27年9月30日までの間に本件各プログラムを改変して被告の顧客のコンピュータやサーバーにインストールした行為が、原告が有する本件各プログラムの譲渡権を侵害する行為に当たると主張しました。
この点について、裁判所は、
『著作権法上,譲渡権とは,「その著作物・・・をその原作品又は複製物・・・の譲渡により公衆に提供する権利」(同法26条の2)とされ,ここにいう「譲渡」とは,目的物の所有権を移転させる行為をいうものと解されるところ,被告が本件各プログラムを改変して被告の顧客のコンピュータやサーバーにインストールする行為は,本件各プログラムの「原作品」や「複製物」の所有権を移転させるものではなく,そもそも上記意味における「譲渡」に当たらないから,同行為が,原告の有する本件各プログラムの譲渡権を侵害するということはできない』と判断。原告の主張を認めていません(4頁以下)。

   --------------------

2 貸与権の侵害行為性

原告は、被告が平成26年9月18日から平成27年9月30日までの間に本件各プログラムをレンタルサーバ上に設置した上で、被告の顧客にインターネットを通じて本件各プログラムを使用させた行為が原告が有する本件各プログラムの貸与権を侵害する行為に当たると主張しました。
この点について、裁判所は、
『著作権法上,貸与権とは,「著作物・・・をその複製物・・・の貸与により公衆に提供する権利」(同法26条の3)とされ,「貸与」とは,使用期間を限った上で複製物を占有して使用する権原を取得させる行為をいうものと解されるところ(同法2条8項参照),被告が本件各プログラムをレンタルサーバ上に設置した上,被告の顧客にインターネットを通じて本件各プログラムを使用させる行為は,使用期間を限った上で本件各プログラムの「複製物」を占有して使用する権原を取得させるものではなく(原告は,被告の顧客のパソコンを「複製物」と主張するところ,被告が同パソコンを顧客に「貸与」していないことは明らかである。仮に,本件各プログラムが設置されたレンタルサーバを「複製物」と解したとしても,インターネットを通じてレンタルサーバ上のプログラムを提供する行為は,同レンタルサーバを顧客の占有下に置くものではないから,やはり複製物を「貸与」するものと解することはできない。),そもそも上記意味における「貸与」に当たらないから,同行為が,原告の有する本件各プログラムの貸与権を侵害するということはできない。』と判断。原告の主張を認めていません(5頁)。

   --------------------

■コメント

本人訴訟ということもあって、争点が整理されていません。
被告の反論内容からすると、原被告間で被告の顧客向けにカスタマイズされたソフトの制作・利用に関する事案のようですが、原被告間の契約上そもそもどうなっていたのかが判然としません。

written by ootsukahoumu at 07:11|この記事のURLTrackBack(0)知財判決速報2016 

2016年08月16日

パン切断装置取扱説明書事件−著作権 特許権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

パン切断装置取扱説明書事件

大阪地裁平成28.7.7平成26(ワ)2468特許権侵害差止等請求事件PDF
別紙1(特許公報)
別紙2(被告製品1説明書)
別紙3(乙7図面)
別紙4(原告スライサー及び原告プログラムの内容)

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 高松宏之
裁判官    田原美奈子
裁判官    林啓治郎

*裁判所サイト公表 2016.08.09
*キーワード:プログラム、創作性、取扱説明書、写真、図面

   --------------------

■事案

パン切断装置の制御プログラムや取扱説明書の著作物性が争点となった事案

原告:パン切断装置製造販売会社
被告:食品機械、省力機器製造販売会社

   --------------------

■結論

請求一部認容

   --------------------

■争点

条文 著作権法2条1項1号、114条3項

1 公然実施発明を主引例とする進歩性欠如について
2 原告プログラムの著作者及び著作物性の有無
3 原告取扱説明書の著作者及び著作物性の有無
4 被告が原告取扱説明書について複製、翻案、複製物の譲渡をしたか
5 原告取扱説明書の著作権侵害に基づく損害賠償請求に係る損害額

   --------------------

■事案の概要

『原告は,被告に対し,下記の請求をした。
(1)特許権に基づく請求
原告は,発明の名称を「パン切断装置」とする特許権を有するところ,被告の製造,販売した製品が当該発明の技術的範囲に属すると主張して,被告に対し,当該特許権に基づき,当該製品の製造,販売等の差止め及び廃棄を求めた。
(2)プログラムに係る著作権に基づく請求
原告は,自ら製造,販売するパン切断装置にインストールされたプログラムにつき著作権を有するところ,被告が同じ内容のプログラムをインストールして製品を製造,販売して上記の著作権を侵害したと主張し,被告に対し,著作権法112条により,当該製品の製造,販売等の差止め及び廃棄を求めた。
(3)取扱説明書に係る著作権に基づく請求
原告は,自ら製造,販売するパン切断装置に添付していた取扱説明書につき著作権を有するところ,被告が同じ内容の取扱説明書を作成,頒布して上記の著作権を侵害したと主張し,被告に対し,著作権法112条により,当該取扱説明書の作成,頒布の差止め及び廃棄を求めた。
(4)不法行為による損害賠償請求
原告は,上記の特許権又は著作権の侵害を原因とする不法行為による損害賠償請求として,損害合計額の一部である8000万円及びこれに対する不法行為後であり,訴状送達の日の翌日である平成26年4月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。』
(2頁以下)

本件特許:特許番号第4148929号
発明の名称:「パン切断装置」
原告スライサー:「縦横切りスライサー」(型式 L7A型)
原告取扱説明書1:製品名「バーチカルカッター」(型式BVC6)取扱説明書
原告取扱説明書2:原告スライサー取扱説明書
被告製品1:型式SS03 製品名「シートケーキ 縦・横切りスライサー」
被告製品2:製品名「縦横切りスライサー」(型式 TL−7A)
被告取扱説明書1:被告製品1取扱説明書
被告取扱説明書2:被告製品2取扱説明書

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 公然実施発明を主引例とする進歩性欠如について

本件特許発明は、当業者が原告旧製品の構成等に基づいて容易に発明することができたものであり、進歩性を欠くとして、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものであると判断されています(52頁以下)。

   --------------------

2 原告プログラムの著作者及び著作物性の有無

原告プログラムの内部リレーの規定方法の創作性(著作権法2条1項1号、10号の2)について、裁判所は、選択の余地が広いとはいえないとして、創作性を否定しています(62頁以下)。
また、原告プログラムの各回路の記述の順序の創作性についてもありふれたものであるなどとして否定しています(72頁以下)。
さらに、原告プログラムのコメントの内容(原告プログラムが入力される回路等の記号の下に記載されたコメント)の創作性についても、ありふれた表現であるとしてその創作性を否定しています(73頁)。

結論として、原告プログラムの著作権に係る請求はいずれも認められていません。

   --------------------

3 原告取扱説明書の著作者及び著作物性の有無

(1)著作者について

原告取扱説明書の表紙に作成名義の記載として原告の商号の記載があることから、原告取扱説明書は、原告の発意に基づきその業務に従事する者が職務上作成した著作物に当たるとして、原告の著作者性が認定されています(73頁以下)。

(2)原告取扱説明書1

通常の図面とは異なる描画方法があり、その程度は低いものの、図面作成者の個性が表れていると認められるとして、著作物としての創作性を有すると裁判所は判断しています。

(3)原告取扱説明書2

(ア)図面について

ありふれたものとして図面に著作物としての創作性が認められていません。

(イ)写真について

「原告製品」欄の写真1、2は、刃物の取り外し及び取り付けを視覚的に伝えるために撮影されたものであり、定められた作業手順をそのまま撮影したものであるから、その性質上、図面作成者の個性が表れる余地が乏しいものであると裁判所は説示した上で、これら6点の写真について、『機械を中央に配し,作業をする者の横側の,やや斜め上の角度から,作業工程を撮影したものであり,機械と共に,作業をする者の両腕が写り込んでいるところ,作業内容を分かりやすく示すために,機械の配置,構図,カメラアングル,作業をする者のどの部分を撮影するかなどといった点に,その程度は低いものの,それなりの工夫がされており,個性が表れている』と判断。
結論として、創作性を肯定しています。

   --------------------

4 被告が原告取扱説明書について複製、翻案、複製物の譲渡をしたか

被告取扱説明書1の図面及び被告取扱説明書2の写真は、原告取扱説明書1の図面及び原告取扱説明書2の写真と同一であり、被告に故意又は過失も認められるとして、被告は本件図面等(図面と写真)の複製権侵害の責任を負うと裁判所は判断。

結論として、差止請求としては、本件図面等を掲載した被告取扱説明書の作成、頒布の差止めの限度で、また、廃棄請求は、本件図面等の部分の廃棄の限度で認容しています(76頁)。

   --------------------

5 原告取扱説明書の著作権侵害に基づく損害賠償請求に係る損害額

(1)原告取扱説明書に係る著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額

(ア)図面
1点につき7500円 3点 2万2500円

(イ)写真
1点につき5000円 4点 2万円

(2)弁護士・弁理士費用相当額損害
2万円

以上、損害合計額6万2500円(76頁以下)

結論として、原告の請求は、原告取扱説明書1、2中の本件図面等に係る著作権に基づく本件図面等を掲載した被告取扱説明書1、2の作成及び頒布の差止請求及び被告取扱説明書1、2中の本件図面等の廃棄請求、並びに本件図面等の著作権侵害の不法行為による損害賠償として6万2500円の範囲で認容されています。

   --------------------

■コメント

シートケーキを縦・横に切断するスライサー切断装置の特許権や装置に実装されているプログラム、また、装置の操作方法やメンテナンス方法についての取扱説明書に関する著作権が争点になっています。
被告代表者のほか少なくとも4名が原告に在籍していたという経緯があった事案となります。
取扱説明書の著作物性については、過去、風呂バンス浴湯保温器取扱説明書事件やウェブサイト入力フォームアシスト機能説明資料事件などがありますが、本件では、取扱説明書のなかの写真と図面について、デッドコピーであった点が創作性判断の結論に大きく影響しているものと考えられます。

   --------------------

■参考判例

・風呂バンス浴湯保温器取扱説明書事件
大阪高裁H17.12.15平成17(ネ)742不正競争行為差止等請求控訴事件
控訴審
大阪地裁H17.2.8平成15(ワ)12778不正競争行為差止等請求事件
原審

・ウェブサイト入力フォームアシスト機能説明資料事件
東京地裁平成25.9.12平成24(ワ)36678著作権侵害差止等請求事件
判決文

written by ootsukahoumu at 06:27|この記事のURLTrackBack(0)知財判決速報2016 

2016年08月13日

舞妓写生会写真事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

舞妓写生会写真事件

大阪地裁平成28.7.19平成26(ワ)10559著作権侵害差止等請求事件PDF
別紙1

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 森崎英二
裁判官    田原美奈子
裁判官    大川潤子

*裁判所サイト公表 2016.08.08
*キーワード:写真、絵画、著作物性、二次的著作物、翻案権、展示権、公表権、同一性保持権

   --------------------

■事案

写生会の際に撮影された写真を無断使用して絵画を制作したかどうかが争点となった事案

原告:日本画家
被告:日本画家

   --------------------

■結論

請求一部認容

   --------------------

■争点

条文 著作権法2条1項1号、25条、18条1項、20条、27条、28条

1 本件写真の著作物性及び著作権の帰属主体
2 被告の本件絵画の制作行為等は本件写真の著作権及び著作者人格権を侵害する行為であるか
3 原告が被告に対して著作権及び著作者人格権を行使することを妨げる事由はあるか
4 被告は本件写真の著作権及び著作者人格権侵害について故意又は過失があるか
5 原告の受けた損害の額

   --------------------

■事案の概要

『本件は,日本画家である原告が,同人の撮影した舞妓の写真を利用して日本画を制作し,その日本画を展覧会に出展した日本画家である被告に対し,著作権(翻案権,展示権)及び著作者人格権(同一性保持権,公表権)侵害を理由として侵害行為の差止等(翻案権及び同一性保持権に基づく写真の翻案の差止請求,展示権及び公表権に基づく絵画の展示,譲渡の差止請求及び廃棄請求)を求めるとともに,不法行為に基づく損害賠償として合計1980万円(著作権侵害を理由とする損害1500万円,著作者人格権侵害を理由とする損害300万円,弁護士費用相当の損害180万円)及びこれに対する不法行為の後の日である平成26年4月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』
(2頁)

<経緯>

H10 舞妓の写生会開催
H21 原告が本件写生会に参加
H23 原告が本件写真を撮影、P3に提供
H24 原告が撮影した写真をP3が被告に郵送

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 本件写真の著作物性及び著作権の帰属主体

原告が撮影した舞のポーズをとった舞妓の写真(本件写真1)、黒髪の舞を踊る最中の舞妓の写真(本件写真2)、舞を踊る最中に座った姿勢となった舞妓の写真(本件写真3)について、いずれも著作物性(著作権法2条1項1号)が肯定され、原告が著作者、著作権者であることが認定されています(12頁以下)。

   --------------------

2 被告の本件絵画の制作行為等は本件写真の著作権及び著作者人格権を侵害する行為であるか

(1)翻案権侵害性

被告が本件写真1ないし3に依拠して本件絵画1ないし4を制作しており、本件各絵画はいずれも本件各写真の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるとして、裁判所は本件写真を翻案したものと判断しています(14頁以下)。

(2)展示権侵害性

本件絵画はいずれも本件写真を翻案して制作された本件写真の二次的著作物に当たることから、原告は二次的著作物である本件絵画についても展示権を専有するところ、被告は本件絵画を不特定多数人が訪れる展覧会に出展して展示しており、被告の本件絵画展示行為は原告の本件絵画に係る展示権(25条)を侵害すると裁判所は判断しています。

(3)同一性保持権侵害性

本件絵画はそれぞれに対応する本件写真との相違点があることから、被告は本件写真の表現を改変したものというべきであると裁判所は判断。
そして、原告が被告に対して本件写真を利用した絵画の制作を許諾しておらず、被告による本件写真の改変は著作者である原告の意に反するものというべきであると判断。
被告の本件絵画制作行為は、原告の本件写真に係る同一性保持権を侵害すると裁判所は判断しています。

(4)公表権侵害性

本件写真はいずれも公表されていない写真であり、本件写真の著作者である原告は公表権を有するところ、本件絵画はいずれも本件写真を翻案して制作された本件写真の二次的著作物に当たり、原告はその二次的著作物である本件絵画についても公表権を有する。そして、被告は本件絵画を不特定多数人が訪れる別紙展覧会目録記載の各展覧会に出展し、公表したことから、被告の本件絵画公表行為は、原告の本件絵画に係る公表権を侵害する行為であると裁判所は判断しています。

   --------------------

3 原告が被告に対して著作権及び著作者人格権を行使することを妨げる事由はあるか

被告は、原告がP3に本件写真を交付することによりその著作権を放棄したとか、利用許諾の存在、あるいは信義則を主張しましたが、いずれも裁判所は認めていません(17頁以下)。

結論として、差止請求及び廃棄請求の成否については、本件写真の翻案権及び同一性保持権に基づく本件写真の翻案の差止請求、そして、展示権及び公表権に基づく本件写真を翻案して制作される絵画の展示及び譲渡の差止請求は、いずれも認められていません(請求の趣旨第1項に係る請求)。
これに対して、被告は、本件写真の二次的著作物である本件絵画のうち、本件絵画1と4をなお販売未了状態で保管していることから、展示のおそれが認められるとして、展示権及び公表権に基づくその展示及び譲渡の差止請求並びに廃棄請求には理由があると判断しています(請求の趣旨第2項、第3項に係る請求)。

   --------------------

4 被告は本件写真の著作権及び著作者人格権侵害について故意又は過失があるか

被告は、本件写真がP3の撮影に係る写真ではないことを認識しながら、漫然とこれを受領し、その著作権及び著作者人格権侵害に及ぶ利用の可否について全く調査確認しようとしなかった点に注意義務違反があるとして、本件写真の著作権及び著作者人格権侵害について過失があると裁判所は判断しています(19頁以下)。

   --------------------

5 原告の受けた損害の額

(1)著作権侵害による逸失利益

本件写真1枚あたり5万円×3枚 合計15万円

(2)著作者人格権侵害による慰謝料

20万円

(3)弁護士費用相当額損害

5万円

以上合計40万円

なお、被告は過失相殺の主張をしましたが、裁判所は認めていません。

   --------------------

■コメント

報道記事を読むと、原告は日本画家の黒川雅子氏。被告は、日展の元評議員で画家の坂根克介氏となります。
朝日の報道記事にあるように作品は報道各社にも公開されておらず、判決には別紙(写真目録、絵画目録、展覧会目録)がPDFで別途添付されているものの、中身は省略されています。

他人から譲り受けた素材を使って制作するのは、広告分野に限らずどの分野でも同じことで、出所(権利関係)が明らかなもの以外は軽々に使うべきではないところです。

   --------------------

■参考サイト

「無断で写真から絵画制作は著作権侵害」日本画家の黒川さんが日展元評議員を提訴」
産経WEST 2014.10.31 19:04

「舞妓写真「無断利用は著作権侵害」 画家の黒川さん提訴」
朝日新聞デジタル 須藤龍也 2014年11月1日00時35分


written by ootsukahoumu at 06:56|この記事のURLTrackBack(0)知財判決速報2016 

2016年08月09日

クラシックコンサートポスター事件−著作権 著作権侵害等損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

クラシックコンサートポスター事件

東京地裁平成28.7.19平成27(ワ)28598著作権侵害等損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 沖中康人
裁判官    矢口俊哉
裁判官    村井美喜子

*裁判所サイト公表 2016.08.03
*キーワード:コンサート制作、契約、共有著作権、合意違反、権利濫用

   --------------------

■事案

クラシックコンサートの企画制作業務委託契約において写真などの取扱いが争点となった事案

原告:クラシックコンサート企画制作会社、代表取締役A
被告:信用金庫

   --------------------

■結論

請求棄却

   --------------------

■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、23条、65条3項、民法415条、1条3項

1 本件コンサート等の告知に係る債務不履行ないし不法行為の成否
2 本件ポスターに係る著作権侵害の成否
3 本件写真に係る債務不履行ないし著作権侵害の成否
4 原告Aの慰謝料請求の当否及び慰謝料額

   --------------------

■事案の概要

『(1)コンサートの告知に係る債務不履行ないし不法行為に基づく請求
原告会社は,平成19年から平成23年までに開催されたコンサート(以下「本件コンサート等」と総称する。)に係る業務を原告会社が受託するに際し,原告会社・被告間で,本件コンサート等を「内輪の催事」ないし「非公開」とする代わりに,原告会社が低価格で業務を受託する旨合意した(以下「本件合意1」という。)にもかかわらず,被告が上記各コンサート開催についてホームページ上に掲載したこと等が上記合意に反する(債務不履行)のに加え,被告が当初からホームページ掲載等を行う意図を有していたにもかかわらず,これを隠して原告会社に業務を委託したのであれば,不法行為にも該当するとして,被告に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき,損害賠償金合計1002万9174円(公開のコンサートにおける通常料金と,「内輪の催事」ないし「非公開」であるとして合意された現実の代金の差額)及びこれに対する遅延損害金(上記損害賠償金のうち平成19年分の差額150万4426円に対する同コンサート開催日である平成19年11月18日から,うち平成20年分の差額167万7166円に対するコンサート開催日である平成20年11月15日から,うち平成21年分の差額169万7166円に対するコンサート開催日である平成21年11月7日から,うち平成22年分の差額169万7166円に対するコンサート開催日である平成22年11月20日から,うち平成23年分の差額345万3250円に対するコンサート開催日である平成23年11月5日から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求める。』

『(2)ポスターに係る著作権侵害に基づく請求
原告会社は,平成23年11月5日開催のコンサート(以下「本件コンサート」という。)に係るポスター(以下「本件ポスター」という。甲4の3参照)について原告会社が著作権を有するところ,被告が無断でこれを自らのホームページ上に掲載したことが上記著作権(公衆送信権)侵害に当たるとして,被告に対し,不法行為に基づき,損害賠償金30万円及びこれに対する平成23年のコンサート開催日である上記同日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。』

『(3)写真に係る債務不履行ないし著作権侵害に基づく請求
原告会社は,原告会社・被告間で本件コンサート中の演奏場面を撮影した写真の取扱いについて平成23年11月5日に合意をした(甲7の書面に基づく合意であり,以下「本件合意2」という。)にもかかわらず,被告が同合意に従った処理をせず,原告会社に無断で被告発行の雑誌に本件コンサートの舞台写真(以下「本件写真」という。甲9の3,甲19の3参照)を掲載したこと等が債務不履行に当たり,また,原告会社が有する上記写真についての著作権(複製権,公衆送信権と解される。)を侵害するとして,被告に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき,損害賠償金50万円及びこれに対する平成23年のコンサート開催日である上記同日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。』

『(4)原告Aに対する不法行為に基づく請求
原告Aは,(1)原告会社・被告間での本訴以前の調停手続等における被告の不誠実な対応等,(2)原告Aがデザインした本件ポスターを被告に無断で使用されたこと,(3)被告の対応等による原告Aの心労から,原告Aの個人会社である原告会社が営業活動をすることができず損害が累積したこと等により,原告Aが精神的苦痛を被った旨主張して,不法行為に基づき,損害賠償金(慰謝料)合計100万円及びこれに対する原告会社・被告間の調停が不成立となった日である平成27年9月30日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。』
(2頁以下)

<経緯>

H08 地域文化貢献活動の一環としてクラシックコンサートを被告が開催
H08 原被告間でコンサート運営代行業務委託契約締結
H23 本件ポスターの被告ホームページへの掲載
    「とよしん“ふれあいコンサート”写真撮影について」書面交付
H24 ディスクロージャー誌(本件雑誌)に本件コンサートの舞台写真(本件写真)掲載
H24 原告会社が平成24年12月28日付け書面を被告に送付
H26 原告会社が損害賠償金支払催告書送付
H27 原告会社が豊橋簡易裁判所に民事調停申し立て、不成立

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 本件コンサート等の告知に係る債務不履行ないし不法行為の成否

原告会社は、原告会社・被告間で平成19年以降、本件コンサート等を「内輪の催事」ないし「非公開」とする代わりに原告会社が低価格で業務を受託する旨合意した(本件合意1)と主張しましたが、裁判所は本件合意1の成立を認定していません(23頁以下)。
結論としては、被告が本件コンサート等に関する記事等をホームページ上に掲載したことが同合意違反(債務不履行)とはならず、また被告が原告会社を欺罔して委託料を減額させたなどとも認められず不法行為が成立することもないとして、原告会社の債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償請求を裁判所は否定しています。

   --------------------

2 本件ポスターに係る著作権侵害の成否

裁判所は、本件コンサートの開催内容を伝える本件ポスターの著作物性(著作権法2条1項1号)を肯定した上で、本件ポスターの表現の創作には被告側従業員と原告Aが寄与しているとして、共同して創作した著作物であり、2条1項12号所定の共同著作物に当たると判断。共同著作物の著作権等の共有著作権の行使(65条2項、3項)について、被告が主催する本件コンサートに係る本件ポスターを、被告自らのホームページ上に掲載することはごく一般的な事柄といえるなどとして、原告会社が著作権侵害を主張してこれを妨げることは、正当な理由を欠くものとして許されないと裁判所は判断しています(26頁以下)。
結論として、被告が本件ポスターに係る原告会社の著作権(公衆送信権)を侵害したものとはいえないと判断されています。

   --------------------

3 本件写真に係る債務不履行ないし著作権侵害の成否

原告会社は、被告が本件コンサートの写真撮影や同写真の使用に関して、「とよしん“ふれあいコンサート”写真撮影について」合意書面(本件合意2)に定められた条件に従わずに本件写真を被告のディスクロージャー誌(本件雑誌)に掲載した点は上記合意に違反する上、原告会社の著作権をも侵害するものであると主張しました(28頁以下)。
この点について、裁判所は、まず、原告会社の本件写真に係る著作権侵害の主張の点については、理由がないと判断。債務不履行(合意違反)の主張の点については、本件合意2に違反する事実が認められるものの、被告は形式的には本件合意2に違反したものであるものの、これは原告会社が同合意の想定しないような不合理な行動を採ったことを原因とするものであるとして、原告会社が被告に対して本件合意2違反に基づく損害賠償を求めることは権利の濫用(民法1条3項)として許されないと判断しています。
結論として、本件写真に係る債務不履行ないし著作権侵害の成立は否定されています。

   --------------------

4 原告Aの慰謝料請求の当否及び慰謝料額

原告Aは、平成23年秋以降被告に話合いを求めたが被告がこれに応じなかったこと(調停手続での対応を含む)等に基づく慰謝料請求をしましたが、裁判所は、被告の平成23年秋以降の対応等において何らかの違法行為があったことを認めるに足りる証拠はないなどとして、原告Aの慰謝料請求は理由がないと判断しています(30頁以下)。
  
   --------------------

■コメント

長年に亘る取引があったものの、イベント経費の削減により両社の関係がこじれた事案となります。
written by ootsukahoumu at 06:25|この記事のURLTrackBack(0)知財判決速報2016 

2016年08月02日

毎日オークションカタログ事件(控訴審)−著作権 損害賠償請求控訴事件、損害賠償請求附帯控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

毎日オークションカタログ事件(控訴審)

知財高裁28.6.22平成26(ネ)10019等損害賠償請求控訴事件、損害賠償請求附帯控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 清水 節
裁判官    片岡早苗
裁判官    新谷貴昭

*裁判所サイト公表 2016.7.28

*キーワード:準拠法、当事者適格、美術カタログ、オークション、複製権、引用、小冊子、権利濫用

   --------------------

■事案

オークション用カタログに掲載された美術作品画像の複製権侵害性が争点となった事案の控訴審

控訴人兼被控訴人  :作家相続人5名代表X1(原告X1)
附帯控訴人兼被控訴人:美術著作権管理団体(原告協会)
被控訴人兼附帯被控訴人兼控訴人:オークション会社

   --------------------

■結論

原判決変更

   --------------------

■争点

条文 著作権法32条、47条、47条の2、114条3項、法適用通則法7条、13条、民法1条3項

1 原告X1の当事者適格の有無
2 著作権移転の有無
3 被告の複製権侵害の態様と原告らの損害額
4 利用許諾の有無
5 本件カタログが展示に伴う小冊子(47条)に当たるか
6 本件カタログにおいて美術作品を複製したことが適法引用に当たるか
7 原告らの請求が権利濫用に当たるか
8 不当利得返還請求について

   --------------------

■事案の概要

『本件は,(1)フランス共和国法人である原告協会が,その会員(美術作品の著作者又は著作権承継者)から美術作品(以下「会員作品」という。)の著作権の移転を受け,著作権者として著作権を管理し,(2)原告X1が,亡パブロ・ピカソ(以下「ピカソ」という。)の美術作品(以下「ピカソ作品」という。)の著作権について,フランス民法1873条の6に基づく不分割共同財産の管理者であって,訴訟当事者として裁判上において,同財産を代表する権限を有すると主張した上で,原告らが,被告に対し,被告は,被告主催の「毎日オークション」という名称のオークション(以下「本件オークション」という。)のために作成したカタログ(以下「本件カタログ」という。)に,原告らの利用許諾を得ることなく,会員作品及びピカソ作品の写真を掲載しているから,原告らの著作権(複製権)を侵害しているなどと主張して,不法行為に基づく損害賠償請求ないし悪意の場合の不当利返還請求として,(ア)原告協会につき1億5564万1860円の一部請求として8650万円及びこれに対する最終不法行為の日の後である平成22年12月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,(イ)原告X1につき1696万1560円の一部請求として850万円及びこれに対する最終不法行為の日の後である同年6月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,それぞれ求めた事案である(請求額は原審段階のものである。)。
 原審は,平成25年12月20日,原告らの請求のうち,原告協会については,4094万4350円の支払請求及びこれに対する附帯請求部分を,原告X1については,441万7000円の支払請求及びこれに対する附帯請求部分を認容する旨の判決を言い渡したところ,原告X1及び被告は,敗訴部分につき全部控訴し,原告協会は,敗訴部分につき全部附帯控訴した。
 その後,当審において,原告らは請求を拡張し,最終的な被告に対する請求内容は,原告協会については,1億8125万4733円及びこれに対する平成22年12月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金であり,原告X1については,2209万0832円及びこれに対する同年6月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金である。
 被告は,全ての請求について棄却を求めるとともに,原告X1の原告適格を争い,原告X1の訴えについては本案前の答弁として却下を求める。』(3頁以下)

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 原告X1の当事者適格の有無

結論としては、原告X1のフランス法上の不分割財産の管理者としての地位は、我が国の訴訟法において単独で訴訟追行することが許される地位と解すべきものであり、本訴において当事者適格を認めることができると控訴審は判断しています(50頁以下)。

   --------------------

2 著作権移転の有無

結論としては、著作権の侵害を主張する会員について、原告協会に適正に入会手続が行われたと認めることができるとして、会員から原告協会への著作権の移転を肯定しています(59頁以下)。

   --------------------

3 被告の複製権侵害の態様と原告らの損害額

複製権侵害について、原審同様、荻須高徳の一部の作品(本件カタログ318号)については、美術の著作物等の譲渡等の申出に伴う複製等に関する著作権法47条の2の規定の適用が肯定され、複製権侵害性が否定されています(111頁以下)。
複製権侵害が認められた作品の損害額の認定にあたっては、SPDA(一般社団法人美術著作権協会)の使用料規程に従い算定(114条3項)。また、約10年間にわたって開催されたオークションで配布された本件カタログ105冊のうち、本訴で提出された99冊の全てにおいて会員作品やピカソ作品に関して複製権侵害の違法行為を繰り返していたと認められることから、本訴で提出されていないカタログ6冊についても同様の違法行為が同程度繰り返されていたと推認するのが合理的であり、かつ、公平であるとして、控訴審は、損害額をその割合に応じて増額しています(76頁以下)。
結論として、原告協会については、弁護士費用相当額損害を含め7862万4614円、原告X1について、893万8485円が認定されています。

   --------------------

4 利用許諾の有無

被告は、アイズピリ作品の著作権管理を行うギャルリーためながから許諾を受けてアイズピリ作品を本件カタログに複製していた旨主張しました。
結論としては、被告が本件カタログに係るアイズピリ作品の利用について許諾を受けたとは認めらていません(128頁以下)。

   --------------------

5 本件カタログが展示に伴う小冊子(47条)に当たるか

被告は、オークションにおける公の展示において、観覧者のために著作物の紹介をすることを目的として小冊子である本件カタログに著作物を掲載したのであり、著作権法47条によりその複製は適法である旨主張しました。
この点について、控訴審は、本件カタログは本件オークションや下見会への参加の有無にかかわらず被告の会員に配布されるものであった点などから、47条の適用を否定。被告の主張を認めていません(129頁以下)。

   --------------------

6 本件カタログにおいて美術作品を複製したことが適法引用に当たるか

引用(著作権法32条1項)の肯否について、控訴審は、本件カタログにおいて美術作品を複製するという利用の方法や態様が本件オークションにおける売買という目的との関係で社会通念に照らして合理的な範囲内のものであるとは認められないし、公正な慣行に合致することを肯定できる事情も認められないとして、32条の適用を否定しています(130頁以下)。

   --------------------

7 原告らの請求が権利濫用に当たるか

原告らの請求が権利濫用に当たるかどうかについて、著作権法47条の2の新設によって同規定の施行前にオークションのために行われた複製に関して損害賠償請求等の権利行使をすることや、同規定の施行後において一定の措置が講じられた範囲外の複製について権利行使をすることが権利濫用であるとはいい難く、また、その他権利濫用であることを肯定できる事情は認められないとして、控訴審は被告の権利濫用の主張を認めていません(131頁以下)。

   --------------------

8 不当利得返還請求について

不法行為に基づく使用料相当損害金とは別に不当利得返還請求を認める余地はないと控訴審は判断しています(133頁以下)。

   --------------------

■コメント

原告らが入手していない本件カタログ部分について控訴審では複製権侵害性が肯定されています。全体として原審と較べて損害額が増額の方向で認定されています。

   --------------------

■過去のブログ記事

2014年02月26日記事 毎日オークションカタログ事件(原審)
written by ootsukahoumu at 06:47|この記事のURLTrackBack(0)知財判決速報2016 

2016年07月28日

小学校学習教材イラスト事件−著作権 著作権侵害差止等請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

小学校学習教材イラスト事件

東京地裁平成28.6.23平成26(ワ)14093著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官    藤原典子
裁判官    中嶋邦人

別紙1(イラスト類目録)
別紙2(書籍目録、文書目録)
別紙3(謝罪広告目録)
別紙4(複製権侵害(書籍目録部分))

*裁判所サイト公表 2016.7.26
*キーワード:契約、出版、イラスト、改変

   --------------------

■事案

小学校用学習教材向けに制作されたイラストの取扱いについて使用範囲が争点となった事案

原告:イラストレーター
被告:小学校学習教材出版社ら

   --------------------

■結論

請求一部認容

   --------------------

■争点

条文 著作権法2条1項1号、22条、19条、20条、114条3項

1 本件文書における本件イラスト類の複製又は翻案の有無
2 本件イラスト類の使用についての原告の許諾の範囲
3 同一性保持権侵害の成否
4 原告の損害額
5 差止め及び廃棄請求並びに謝罪広告掲載請求の当否
6 本件イラスト類13の修正に係る請求の当否
7 本件未完成作品に係る請求の当否

   --------------------

■事案の概要

『本件は,原告が,被告らに対し,(1)原告が被告らの依頼により本件イラスト類を作成し,被告らに提供したことに関して,(1)被告らによる本件書籍及び本件文書への本件イラスト類の使用が原告の許諾の範囲を超えるものであり,原告の著作権(複製権及び翻案権)の侵害に当たるとして,著作権法112条1項及び2項に基づく本件イラスト類の複製等の差止め並びに本件書籍及び本件文書の複製等の差止め及び廃棄と,民法709条,著作権法114条3項に基づく損害賠償金7105万2000円及び遅延損害金の連帯支払,(2)本件書籍及び本件文書の一部において本件イラスト類を改変し,原告の氏名を表示しなかったことが原告の著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)の侵害に当たるとして,民法709条,710条に基づく慰謝料280万円及び遅延損害金の連帯支払並びに謝罪広告の掲載,(3)原告のイラストが掲載されていない教材に原告の氏名を表示したことが氏名権侵害の不法行為に当たるとして,民法709条,710条に基づく慰謝料20万円及び遅延損害金の連帯支払,(4)上記(1)〜(3)に係る弁護士費用690万2500円及び遅延損害金の連帯支払を求めるとともに,(2)原告が被告らの依頼により修正した本件イラスト類13の修正料6万円及び使用料20万円並びに遅延損害金の連帯支払,(3)原告が被告らの依頼により中途まで作成した未完成のイラスト類の製作料(予備的に契約解除による損害賠償金)32万円及び遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。』(3頁)

<経緯>

H15 被告らが原告にイラスト制作を依頼
H16 イラスト使用条件について話合い
H17 平成17年度教科書改訂
H22 被告らが原告に本件イラスト類13修正を依頼
H23 平成23年度教科書改訂
H24 平成24年度教材への本件イラスト類掲載
H27 平成27年度教科書改訂

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 本件文書における本件イラスト類の複製又は翻案の有無

教材広告宣伝のためのチラシ類である、別紙文書目録記載の各文書(本件文書)に用いられている本件イラスト類4〜6及び11について、原告がこれらに関して著作権及び著作者人格権の侵害を主張したのに対して、被告らは本件文書には本件イラスト類の創作性のある表現が再現されておらず複製又は翻案に当たらず、著作者人格権侵害も成立しない旨主張しました(13頁以下)。
この点について、裁判所は、まず、イラストの著作物性について、吉野ヶ里遺跡の再現想像図といった本件イラスト類4〜6及び11は美術の著作物に当たると判断。
その上で複製又は翻案の成否について検討を加えています。
結論としては、本件文書ではこれらイラスト類が縮小されるなどしており、細部の陰影等の表現は感得できないなどとして、本件文書につき被告らによる著作権(複製権、翻案権)の侵害を認めることはできないと判断しています。
また、著作権侵害があることを前提とする著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)の侵害も認めていません。

   --------------------

2 本件イラスト類の使用についての原告の許諾の範囲

小学校6年生向け社会科資料集といった本件書籍への本件イラスト類の使用について、平成23年度以降の使用については原告の許諾がなく、複製権侵害が成立することを被告らは争っていないことから、平成22年度以前の本件書籍への本件イラスト類の使用を原告が許諾していたかどうかが検討されています(15頁以下)。
結論としては、作成を依頼された教材については、準拠する教科書が改訂されるまで翌年度以降も追加の使用料の支払なしに被告らがそのイラスト類を使用することを原告が許諾したものとみることができると裁判所は判断。
ただ、教科書が改訂された平成23年度以降については、許諾があるとは認められないと判断しています。

   --------------------

3 同一性保持権侵害の成否

原告は、本件書籍に使用された本件イラスト類1〜6について、サイズの変更(縮小)、色の変更及びトリミングを行ったこと、また、本件イラスト類19について、大型ポスターとした上でシールを貼るための丸枠内に別の画像をはめ込んだことが原告の同一性保持権を侵害する旨主張しました(20頁以下)。
この点について、裁判所は、まず、本件イラスト類1〜6について、本件イラスト類の作成に当たっては、学習対象への児童の関心を引いて理解を深めるという教材の目的や、教材の限りある紙面に多数のイラスト等を掲載するという利用態様に照らして、掲載箇所の紙幅等を考慮してサイズや色を変更したり、一部をカットしたりすることが当然に想定されていたとみることができると判断。本件イラスト類1〜6について、上記のようにサイズを変更するなどした被告らの行為は同一性保持権の侵害に当たらないと判断しています。
これに対して、本件イラスト類19については、A4判の理科学習ノートの口絵部分に見開き(ほぼA3判の大きさ)で掲載するものとして原告が被告らの依頼により作成したこと、動植物の四季の変化の様子を1枚に描いたものであり、シールを貼るための円形の枠が十数か所設けられていること、被告らはこれをA1判相当に拡大した上で上記の枠に替えて別の画像をイラスト中に埋め込んで授業で使用できる掲示用資料(ポスター)を作成したと認定。
上記事実関係に照らして、本件イラスト類19に加えられたサイズ及び画像の変更は、学習用教材であることを考慮してもその内容及び程度に照らし原告の意に反する改変というほかないと裁判所は判断。本件イラスト類19については、同一性保持権侵害が成立すると判断しています。

   --------------------

4 原告の損害額

(1)複製権侵害について(114条3項)

平成17年度43万7500円
平成19年度10万円
平成20年度4万7500円
平成21年度2万3000円
平成23年度107万1000円

合計167万9000円が損害額として認定されています(22頁以下)。

(2)著作者人格権侵害について

同一性保持権侵害について慰謝料10万円、氏名表示権侵害について慰謝料40万円が認定されています(27頁以下)。

(3)氏名権侵害について

イラスト制作者ではないのに、平成23年度及び平成24年度の理科学習ノート・3年生に原告の氏名が掲載された点について、慰謝料5万円が認定されています(28頁以下)。

(4)弁護士費用相当額損害

30万円(29頁)

   --------------------

5 差止め及び廃棄請求並びに謝罪広告掲載請求の当否

差止め及び廃棄請求並びに謝罪広告掲載請求の当否について、被告らが平成24年度をもって本件イラスト類の使用を取りやめたこと、平成22年度分までの教材は平成23年度の教科書改訂以降、平成23年度及び平成24年度の教材は平成27年度の教科書改訂以降、いずれも教科書に準拠する小学校用の教材であるという性質上、そのままの形では使用できないことが明らかであると裁判所は判断。
被告らが今後本件イラスト類を複製し、又は本件書籍を頒布等するおそれがあるとは認められないとして、原告の差止請求はいずれも理由がないと判断しています(29頁)。
また、被告らの行為により原告の名誉、声望等が害されたことをうかがわせる証拠はないとして、謝罪広告の掲載請求も認めていません。

   --------------------

6 本件イラスト類13の修正に係る請求の当否

本件イラスト類13の修正料の請求については、1万円が認定されています(29頁以下)。

   --------------------

7 本件未完成作品に係る請求の当否

本件未完成作品(武士の館、貴族の館及び太閤検地を題材とする作品)に係る請求の当否について、原告と被告らの間に原告が3件のイラストを完成させて、被告らがその代金を支払う旨の契約が締結されたと認められるものの、同契約は平成23年末頃の時点で合意解除されたとみることができ、また、出来高に応じて代金を支払う旨の約定の存在も認められないとして、裁判所は、原告の上記契約に基づく代金の支払請求は理由がないと判断しています(30頁以下)。

結論として、合計253万9000円の請求が認容されています。

   --------------------

■コメント

小学生向けの学習教材で使用するイラストの取扱いについて、発注者側の出版社と受注者側のイラスト制作者との間で使用条件などについて契約上齟齬が生じた事案となります。
5年以上に亘る継続的な取引のなかで、イラストの使用条件について問題を先送りにした結果もあったかと思われる事案です。
written by ootsukahoumu at 06:50|この記事のURLTrackBack(0)知財判決速報2016 

2016年07月21日

市議会広報誌「いわで議会だより」事件−著作権 損害賠償請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

市議会広報誌「いわで議会だより」事件

大阪高裁平成28.5.20平成28(ネ)25損害賠償請求控訴事件PDF

大阪高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官 山田知司
裁判官    寺本佳子
裁判官    中尾 彰

*裁判所サイト公表 2016.7.14
*キーワード:広報誌、複製、翻案、同意

原審:和歌山地方裁判所平成26年(ワ)第569号 裁判所サイト未掲載

   --------------------

■事案

議会だより用に提出した原稿が無断改変されたかどうかが争点となった事案

控訴人(一審原告) :岩出市議会議員
被控訴人(一審被告):岩出市

   --------------------

■結論

控訴棄却

   --------------------

■争点

条文 著作権法21条、27条、国家賠償法1条1項

1 改変に対する控訴人の同意の有無について
2 本件各編集について

   --------------------

■事案の概要

『原審における本件は,岩出市議会議員である控訴人が,被控訴人に対し,岩出市議会は,控訴人が市議会広報誌「いわで議会だより」用に提出した原稿を,控訴人に無断で編集して上記広報誌に掲載し,控訴人の著作権を侵害したと主張して,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求として,10万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成26年9月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 原審は,控訴人の請求を棄却したところ,同人が,10万円の支払請求を棄却した部分を不服として控訴を申し立てた。』(2頁)

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 改変に対する控訴人の同意の有無について

控訴人は、市議会広報誌「いわで議会だより」用の本件原稿の提出に当たって、控訴人の了解なしに編集が加えられることに同意していない旨主張しました(5頁以下)。
この点について、裁判所は、広報委員会の控訴人に対する本件通知文において、文字数等を具体的に指定した上で、「文字数の超過や写真・タイトル等のスペースが確保されていない場合は,委員会で校正をします。(句読点,段落等の構成も含む。)ので,あらかじめご了承ください。」との記載があることを前提に、控訴人は上記記載のある本件通知文を受け取り、それに対して何らの留保も付することなく広報委員会に原稿を提出しているとして、本件通知文において指定された文字数等の範囲に収めるのに必要で、かつ、原稿の記載の趣旨を変更しない範囲においては、広報委員会が提出原稿の校正を行うことにあらかじめ同意したと認めるのが相当であると判断しています。

   --------------------

2 本件各編集について

控訴人は、本件各編集は本件原稿を違法に改変するものである旨主張しました(6頁以下)。
この点について、裁判所は、本件各編集はいずれも控訴人の同意の範囲内の編集であると認めるのが相当であると判断。本件各編集は本件原稿を違法に改変するものではないと判断しています。

結論として、控訴人(一審原告)の主張は認められていません。

   --------------------

■コメント

和歌山県岩出市の市議会が発行する議会だよりの原稿編集を巡って、市議会議員と市側とで紛争になっています。
原審同様、原告の主張は認められず、著作権侵害性が否定されています。
市議会での質疑を内容とする簡易な議事録のような発行物の性質上、文字数も制限されており、元原稿はかなり編集が加えられる場面があるかと想像されます。

原告市議は、ブログを書かれておいでで、その記載からしますと、平成26年3月号(第31号)の13頁部分になるかと思います。内容としては、上下水道料金について質問し、上下水道局長と市長が質問に対して答弁をしています。

   --------------------

■参考サイト

いわで議会だより改ざん・・・・・・著作権侵害|ひろちゃん(尾和弘一)のブログ
議会だより 岩出市
議会だより 岩出市 平成26年3月号(第31号)PDF

written by ootsukahoumu at 07:16|この記事のURLTrackBack(0)知財判決速報2016 

2016年07月19日

歴史小説テレビ番組事件(控訴審)−著作権 著作権侵害差止等請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

歴史小説テレビ番組事件(控訴審)

知財高裁平成28.6.29平成27(ネ)10042著作権侵害差止等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 清水 節
裁判官    片岡早苗
裁判官    古庄 研

*裁判所サイト公表 2016.7.7
*キーワード:歴史小説、テレビ、著作物性、翻案、複製、氏名表示権、同一性保持権

   --------------------

■事案

歴史小説を無断でBSテレビ番組として制作したかどうかが争点となった事案の控訴審

控訴人(一審原告) :歴史小説作家(直木賞受賞作家)
被控訴人(一審被告):テレビ・ラジオ番組企画制作会社

   --------------------

■結論

控訴棄却

   --------------------

■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、27条、19条、20条

1 著作権(翻案権、複製権)侵害の成否
2 著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)侵害の成否
3 許諾の有無
4 損害発生の有無及びその額

   --------------------

■事案の概要

『本件は,控訴人が,被控訴人が控訴人の著作物である原告各小説を無断で翻案ないし複製して被告各番組を制作して,控訴人が有する著作権(翻案権,複製権)及び著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権)を侵害したと主張して,被控訴人に対し,著作権法112条1項に基づき,被告各番組の公衆送信及び被告各番組を収録したDVDの複製,頒布の差止めを求めるとともに,民法709条に基づく損害賠償金3200万円及びこれに対する平成25年6月26日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
 原審は,控訴人の請求のうち,被告番組1−3−1,被告番組2−5−6,被告番組3−4−6,被告番組4侵害認定表現部分及び被告番組5侵害認定表現部分が,それぞれ,控訴人の保有する原告各小説に係る著作権(複製権,翻案権)を侵害すると認めて,被告各番組の公衆送信の差止め,同番組を収録したDVDの複製又は頒布の差止め,及び,30万8659円の損害賠償金(遅延損害金を含む。)の支払について認容し,その余の請求を棄却した。
 控訴人は,損害賠償金の支払が認められなかった部分についてのみ控訴した。』
(2頁)

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 著作権(翻案権、複製権)侵害の成否

(1)控訴人の主張の変更について

控訴人は、控訴審において原審で主張した著作権侵害のうち、「シークエンスの翻案」の一部について各ストーリーを構成する表現の内容を変更しました。これに対して、被控訴人は、控訴人においてシークエンスの翻案についての選択する記述及び配列を修正することは、時機に後れた攻撃防御方法であって許されないと反論しました。
この点について、控訴審は、変更部分については創作性の有無や類否に関する審理を再び行わなければならないことなどを前提に、変更の時期や2年6か月の審理といった経緯を踏まえ、訴訟完結遅延が明白であるとして、時機に後れた攻撃防御方法と判断。控訴人の変更の主張を却下しています(17頁以下)。

(2)シークエンスの翻案について

被告各番組が、原告各小説のシークエンスのストーリーの翻案に当たるとはいえないと控訴審は判断しています(20頁以下)。

(3)人物設定の翻案について

控訴人は、著作権法で保護する人物設定であるためには、登場人物に具体的な「性格、思想、道徳、経済観念、経歴、境遇、容姿等」を与えればよいのであって、原告小説2の6人の登場人物についての人物設定は、いずれもかかる要件を満たすとして、著作権法で保護されるべきものである旨主張しました(34頁以下)。
この点について、控訴審は、原告小説2の6人の登場人物は、いずれも歴史上の実在の人物であり、具体的な「性格」等を与えるだけでは単なる歴史上の事実か、歴史上の事実等についての見解や歴史観にすぎないから、著作権法の保護の対象となるとはいえないと説示した上で、人物設定の具体的記述における表現の創作性を個別に検討。
結論として、控訴人の主張はいずれも認められていません。

(4)エピソードの翻案について

控訴人は、控訴人が主張する原告各小説の各エピソードは5つのWを備えた個々の行動や出来事を複数組み合わせたものであって、翻案権の保護範囲であるストーリーであると主張しました(41頁以下)。
この点について、控訴審は、原告各小説は歴史小説であり、個々の行動や出来事を複数組み合わせたというだけであれば、単なる歴史上の事実や歴史上の事実等についての見解や歴史観にすぎないこともあるとして、それのみで著作権法の保護の対象となるとはいえないと説示。その上で、各エピソードについて、歴史上の事実又はそれについての見解や歴史観が具体的記述において創作的に表現されたものであるか否かをその事実の選択や配列、歴史上の位置付け等を踏まえて検討しています。
結論として、控訴人の主張はいずれも認められていません。

(5)部分複製について

原審同様、控訴審においても、原告各小説の部分と被告各番組との共通する表現はいずれもありふれたものであるなどととして、控訴人の主張は認められていません(48頁以下)。

   --------------------

2 著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)侵害の成否
3 許諾の有無
4 損害発生の有無及びその額

争点2乃至4について、原審の判断が控訴審でも維持されています。
結論として、控訴は棄却されています。

   --------------------

■コメント

控訴審でも原審の判断が維持されていて、損害額の認定に変更は生じていません。

   --------------------

■過去のブログ記事

2015年03月09日 原審記事

   --------------------

■追記(2016.9.17)

原告代理人を担当された柳原敏夫先生の「著作権その可能性の中心−定住以前の遊動性法律家をめざして−」より

佐藤雅美 VS テレビマンユニオン 著作権侵害事件(上告審)上告理由書(2016.9.12)(2016年9月13日火曜日)

上告理由書本文
別紙1乃至15


written by ootsukahoumu at 07:19|この記事のURLTrackBack(0)知財判決速報2016 

2016年07月14日

「aiko」音楽原盤グヌーテラ送信発信者情報開示請求事件−著作権 発信者情報開示請求事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「aiko」音楽原盤グヌーテラ送信発信者情報開示請求事件

東京地裁平成28.6.23発信者情報開示請求事件PDF
別紙

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官    萩原孝基
裁判官    中嶋邦人

*裁判所サイト公表 2016.7.7
*キーワード:発信者情報開示請求、送信可能化権

   --------------------

■事案

グヌーテラファイル交換ソフトやそれと互換性のあるソフトウェアを利用して音楽原盤の無断送信可能化した点についてプロバイダ責任制限法4条1項に基づく発信者情報開示請求の可否が争点となった事案

原告:レコード会社ら4社
被告:インターネット接続プロバイダ事業者

   --------------------

■結論

請求認容

   --------------------

■争点

条文 プロバイダ責任制限法4条、著作権法96条の2

1 明らかな著作権侵害の有無
2 開示を受けるべき正当な理由の有無

   --------------------

■事案の概要

『本件は,レコード製作会社である原告らが,一般利用者に対してインターネット接続プロバイダ事業等を行っている被告に対し,原告らが送信可能化権を有するレコードに収録された楽曲を氏名不詳者が無断で複製してコンピュータ内の記録媒体に記録して蔵置し,被告の提供するインターネット接続サービスを経由して自動的に送信し得る状態にすることにより,原告らの送信可能化権が侵害されたと主張して,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき,被告が保有する発信者情報の開示を求める事案である。』(4頁)

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 明らかな著作権侵害の有無

裁判所は、インターネット接続サービスを利用して本件IPアドレスの割当てを受けてインターネットに接続していた者(本件各契約者)が、Gnutella及びこれと互換性のあるソフトウェアのネットワークを介して各音楽ファイルを多数の者に対し送信可能な状態にしており、本件において、著作権法102条1項により準用される同法30条以下に定める著作隣接権の制限事由が存在することはうかがわれないことから、本件各契約者が各原告の本件各レコードに係る送信可能化権(同法96条の2)を侵害したことが明らかであると判断しています(4頁)。

   --------------------

2 開示を受けるべき正当な理由の有無

各原告は、本件各契約者に対して著作隣接権侵害を理由に損害賠償請求権等を行使することができるが、本件各契約者の氏名、住所等を覚知する手段が他にあるとうかがわれないことから、本件発信者情報を有し、この情報に関してプロバイダ責任制限法4条1項の「開示関係役務提供者」に当たる被告に対して、その開示を受けるべき正当な理由があると裁判所は判断。
結論として、各原告の本件各契約者の氏名、住所及び電子メールアドレスについての開示請求が認められています(4頁)。

   --------------------

■コメント

aikoやいきものがかり、安室奈美恵、嵐のCDを違法にアップロードしていた事案となります。

   --------------------

■過去のブログ記事

東京地裁平成26.6.25平成26(ワ)3570発信者情報開示請求事件
音楽原盤グヌーテラ送信発信者情報開示請求事件


 --------------------

■追記(2016.07.26)

aiko「ひとりよがり」発信者情報開示請求事件(対朝日ネット)
東京地裁平成28.7.19平成28(ワ)14508発信者情報開示請求事件
判決文PDF

 --------------------

■追記(2016.08.20)

「SEKAI NO OWARI」音楽原盤グヌーテラ送信発信者情報開示請求事件

東京地裁平成28.8.3平成28(ワ)15218 発信者情報開示請求事件
判決文
別紙1

--------------------

■追記(2016.09.07)

三代目 J Soul Brothers「Always」グヌーテラ発信者情報開示請求事件

東京地裁平成28.8.30平成28(ワ)16352発信者情報開示請求事件
判決文
別紙
written by ootsukahoumu at 06:37|この記事のURLTrackBack(0)知財判決速報2016 

2016年07月11日

フリーペーパー写真事件−著作権 売掛金請求控訴事件判決(知的財産裁判例集)−

最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

フリーペーパー写真事件

知財高裁平成28.6.23平成28(ネ)10026売掛金請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 鶴岡稔彦
裁判官    大西勝滋
裁判官    寺田利彦

*裁判所サイト公表 2016.6.29
*キーワード:写真、複製、公衆送信、氏名表示権

原審:水戸地方裁判所龍ケ崎支部平成27年(ワ)第24号(裁判所サイト未登載)

   --------------------

■事案

写真の使用範囲について、フリーペーパーを越えてウェブ使用まで許諾していたかどうかが争点となった事案の控訴審

控訴人(一審原告) :カメラマン
被控訴人(一審被告):冊子発行人

   --------------------

■結論

原判決変更

   --------------------

■争点

条文 著作権法21条、19条、20条、114条3項

1 複製権侵害、公衆送信権侵害の成否
2 同一性保持権侵害、氏名表示権侵害の成否
3 損害の発生及び額

   --------------------

■事案の概要

『本件は,控訴人が,被控訴人に対し,(1)被控訴人が,控訴人の著作物である写真48点(ただし,別紙において「原告撮影」と特定された写真50点の元となる各写真を指す。かき氷の写真3点はいずれも同一の写真をトリミングしたものであるため,元となる写真は全48点となる。以下,これらの各写真を「本件各写真」という。)を使用して作成した小冊子「ARCH」(以下「本件冊子」という。)を,控訴人の許諾を得ることなく電子データ化し,これを被控訴人が管理運営する特定非営利活動法人ちゃんみよTVのホームページに掲載した行為(以下,被控訴人が作成した本件冊子の電子データを「本件電子データ」,本件電子データを掲載した前記ホームページを「本件ホームページ」,本件電子データを作成して本件ホームページに掲載した被控訴人の行為を「本件ホームページ掲載行為」という。)は,控訴人が有する本件各写真の著作権(複製権,公衆送信権)を侵害する,(2)本件冊子において,被控訴人が,控訴人に無断で本件各写真の一部をトリミングし,本件冊子の2頁に「カメラマンX’」と表示した行為は,控訴人が有する本件各写真の著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)を侵害すると主張して,不法行為による損害賠償請求権に基づき,損害賠償金814万2800円(著作権侵害による財産的損害314万2800円,著作者人格権侵害による精神的損害500万円)及びこれに対する平成26年11月1日(不法行為の後の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である(なお,控訴人は,著作者人格権侵害の態様として,公表権侵害も主張していたが,当審の口頭弁論期日において,かかる主張は撤回した。)。
 原審は,控訴人の請求を全部棄却したので,控訴人が,控訴の趣旨記載の裁判を求めて控訴した。』

<経緯>

H26.06 原被告間で撮影契約締結
H26.07 本件冊子発行
H26.08 被控訴人が本件冊子のPDFをホームページに掲載
H26.09 被控訴人が撮影料3万円振込。控訴人が29万円支払要求
     控訴人が本件契約解除通知
H26.12 控訴人が民事調停申立

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 複製権侵害、公衆送信権侵害の成否

控訴人撮影の写真の使用範囲について、控訴審は、本件冊子を越えて本件ホームページ掲載についても明示の許諾はむろん、黙示の許諾があったとは認められないとした上で、被控訴人の過失、行為の違法性を肯定。著作権侵害性を認定しています(8頁以下)。

   --------------------

2 同一性保持権侵害、氏名表示権侵害の成否

控訴人は、本件冊子において、控訴人に無断で本件各写真50点中33点の写真がトリミングされ、また、本件冊子2頁に「カメラマン X’」と控訴人の氏名が表示されたと主張しました(13頁以下)。
この点について、控訴審は、控訴人は本件冊子の作成中、「冊子のデザイン」や「写真の使い方(トリミング)」等に疑問を感じて被控訴人にクレームを付けたものの、最終的には本件冊子の発行を承諾していること、また、発行日当日に自ら本件冊子を受け取り、その内容を確認した上で被控訴人に対し撮影料を請求する意思がある旨を伝えたこと、の各事実が認められ、その撮影料を請求したメッセージの文面からしても、何ら写真がトリミングされたことや氏名表示の態様について抗議の意思は示されていないと認定。
控訴人は、本件冊子の発行前にその校正刷りを確認し、本件各写真50点中、控訴人が主張する33点の写真がトリミングされている事実やその氏名表示の態様を具体的に認識し把握した上であえて本件冊子の発行を承諾したものと認めるのが相当であると判断。
結論として、控訴人が主張する写真のトリミングや氏名表示の点については、控訴人の同意があったというべきであるとして、控訴人が有する本件各写真の同一性保持権及び氏名表示権を侵害するものとは認められないとしています。

   --------------------

3 損害の発生及び額

本件著作権侵害に基づく使用料相当額(著作権法114条3項)として5万円が認定されています(14頁以下)。

   --------------------

■コメント

控訴人と被控訴人との間で本件ホームページ掲載行為以前から本件冊子の編集方針(写真の使い方)や本件各写真の撮影料の支払を巡って争いが生じており(11頁参照)、民事調停申し立て、そして訴訟にまで至った事案となります。
地域活性化の一環として地域の祭り(牛久かっぱ祭り)で配布することを念頭に作成されたフリーペーパー向けにボランティアワークとして無償で撮り下ろした写真について、紙媒体を越えてウェブで利用されたということで原審全部棄却の判断から一転、控訴審では侵害性が一部肯定されています。

紙媒体の冊子をそのままPDFにしてウェブで利用することは、現状の雑誌広告写真の利用態様(改変無しの媒体変換については、包括許諾)からすると、広告現場感覚としては通常で、侵害性肯定の点は、ウェブ利用前から紛争状態であったという本件での事例判断かと考えられます。
いずれにしても、判決文を読む限り、ボランティアでの冊子発行ということで、なれ合いのなかでフリーペーパーを制作しており、発行者側にも著作物の利用について脇が甘く、また、写真家も29万円(交通費など地元での撮影だとすれば経費もさほど掛かってはいないと思われますが)の撮影料を請求している点も含めプロ(どの程度著名なかたか分かりませんが)としては理解が得られない対応で、5万程度の損害額認定は落としどころとしては納得感があります。
written by ootsukahoumu at 06:44|この記事のURLTrackBack(0)知財判決速報2016